「免許皆伝」って、誰が誰に免を許すのか解らないですけど、何となくありがたみがある言葉ですね。

僕が初めて免許というのを手にしたのは中学校の時のアマチュア無線免許でしたが、大臣の朱色のはんこが押してあるのにはコドモ心ながらたいへんに感動いたしました。
次に手にしたのは運転免許。なんとか委員会って書いてある小さなやつで、あまりありがたみが感じられませんでした(なんとか委員会なら小学校の時から僕だって入ってるも~ん)。

僕はもちろん人様に免許を与えるような立場にはありませんけども、そういえば自分もそういう権威を悪用(?)したことがあったなぁ、と思い出しました。

いや、悪用じゃないんです。ちょっとコソクなだけで。
仕事仲間の厨房が(いや、ほんとに中学生男子)が、だんだん慣れてきて生意気になってきたので、ちょっと真面目に働かせニャならんなー、と思っていた頃です。
夏が近づいてきたので、この少年が欲しがっている資格をエサに使って言うことをきかせてやろうとたくらんだわけです。

少年は海中に潜りたいと常々言っていました。
彼の父親もダイブマスターの資格を持っておられる方で、少年は小さい頃から潜水経験は積んでいるのですが、そろそろちゃんとした資格が欲しくてたまらない時期だったのです。

少年は区立中学校の水泳部に所属し、僕の母校の水泳部の記録を抜いて渋谷区新記録を出したスイミング・アスリートであることを、僕は知っていました。
水泳が得意な若手代議士に向かって、記録は?と生意気に聞き、僕の勝ちですね、と平気で言うような厨房ならではのアホさも持ち合わせている奴でした。

僕の泳力はというと、おぼれずどこまでも泳げますというだけの、何型かわからない泳ぎしかしてこなかった人間です。
しかし、私にも大人としての立場があります。

タイミングを見計らって、彼に学科教習を受けさせ(一月後には彼は教本を丸暗記してきた。僕だって熟読していない分厚い本を)ペーパー試験をした。
満点だった。口頭試問も完璧だった。

最後は実技試験であります。実際に海で行います。
僕は合格の証人になってもらうのと、イザという時のアシスタントをしてもらう係を職場の同僚に頼んで、その少年を伊豆の海に沈めました。
女優・広末涼子さんがやはり同じような理由で、海に沈められたビーチです。

(ビーチで人気者の犬のタンクくん)

その少年は水深20メートルをものともせず、見事にすべての課題を一発でクリアしました。
海から上がったあと、僕は唖然として
「もう君に教えることは何もない」
とあっさり免許皆伝してしまいました。
プールでは同僚女子が、ただただ少年のやせマッチョに見とれて遠い目をしていました。

その後、彼は高校に進学しましたが、ある日、民放のシンクロナイズド・スイミングをテーマにした人気ドラマに出演しておりました。
でも、あまりにも泳ぎが上手だったのと、優等生キャラだったためでしょうか。結局そういう役柄でした。

そういう役柄は、ドラマ的には脇役であります。
つまりクライマックスシーンで、人間櫓の上に立つのは別のアイドル俳優で、彼は水中で息を止めている係でした。
(う~ん、俺の教育がわるかったんかなぁ。。。)


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