といっても、今、ニュースで大はやりのホリエモンとかナベツネさん(ちょっと古いか)のことではありません。 どちらかというと僕たちにあまり関係のない遠くの国の話を今日はしようと思います。

僕はこの日本という国で典型的な戦後パブリック・エデュケーションを受けて育った人間だと思います。 戦前戦中の言論統制や大本営発表のウソなどをさんざん教えられ、マスメディアの力が悪用されたり、国民の「知る権利」が侵されると、どんなに恐ろしいことになるか口を酸っぱくして教えられました。 本当に言いたいことが言えなくなる程恐いことはないと思いましたし、今でも言論の自由は絶対に守り抜きたいと思っています。ましてや誰かの意のままにマスメディアが操作されるなんてSF映画だとしても身の毛もよだつ思いです。

すみません、話がそれました。 メディア王。 と言って僕が真っ先に思い浮かべるのは、イタリアのベルルスコーニ氏のことです。 15年前、僕がローマに駐在していた頃、イタリアには国営放送のRAIの他に民放が100局以上有りました。 イタリアのテレビ受信機は99チャンネルあって、それ以上はどうぞご勝手に、というメーカーの姿勢がいいかげんで笑えました。 というのも放送局開設の認可がとても簡単で、誰でもマンションの一室にテレビ局を開くことができたからでありまして、スポンサーさえ付けば、わりと簡単にローカルテレビ局を作れました。 とはいえ、採算をあげるのは簡単ではありませんから、テレビショッピングを頑張ってやりつつも、中小のマンションテレビ局は出来ては倒産し、作っては倒産し、の繰り返しでした。 いかにもイタリアらしくて、脳天気ですね~。 もちろん大手のテレビ局はミラノに立派な局を構えていて、それはもう日テレやTBS、フジテレビと何ら変わらない、いやそれを上回るようなカッチョイイテレビ局でした。 僕はその中でもカナル・チンクエというオサレな民放テレビ局が気に入っていて、番組を売ってもらうために、よく日参しておりました。 他にもイタリアには、日テレ、フジ、クラスの大手テレビ局がいくつかあるのですが、僕がびっくりしたのは、それら大手テレビ局数社すべてののオーナーが、たった一人の人間。 ベルルスコーニ氏という人物だったという公然の事実です。15986

要するに国営放送のRAIと、ベルルスコーニ氏の私有放送局の民放キー局、その二つしかテレビのマスメディアはない状況だったのであります。 彼をメディア王と呼ばずして、なんと呼びましょう。 さらに驚いたことには、帰国してだいぶたった頃、ふと新聞を見ると、ベルルスコーニ氏がイタリアの首相に当選したという記事があるではありませんか。 これで国営放送も民放も完全に彼に掌握されたことになります。 イタリア中のテレビはウーノもチンクエも、すべてベルルスコーニ氏の思いのままです。 ああ、可哀想に! イタリア人はマスメディアにコントロールされて、大本営発表を信じて、戦前戦中の日本のように、あるいは今の北朝鮮のようになってしまうのか。。。 という心配は、ローマにいた頃から僕は感じていたので、信頼できるコーディネーターに、この問題について意見を求めました。 彼は笑って答えました。

「イタリアは階級社会だから、知識階級はそもそもテレビなんか見ない。ニュースを見て鵜呑みにする人なんかいないから、心配いらないんだよ」 ふん、なにを気取ってやがる、と僕は思いました。 15年後、2004年、夏。 僕はオフクロを連れてイタリアに旅行しました。 宿泊したホテルで見たRAIウーノでは、おっぱいを丸出しにした世界美人コンテストが、ソフィア・ローレンの司会で盛り上がっていました。 カナル・チンクエばりのオサレなバラエティーもやっていました。なんとも陽気で脳天気です。 これがベルルスコーニ首相の趣味かどうかはわかりませんが、僕は「なるほど!」と思いました。

ベルルスコーニがどんな経営をしようと、イタリア中の人が全員洗脳されておっぱい星人になる心配など、だれもしていないのです。 マスメディアが権力に支配される云々を議論する前に、まず自分のメディアリテラシーを磨けば良いんじゃないか。 日本人には、それを啓蒙すべきではないのか。 視聴者、個人個人に! 最近、日本のマスメディアをめぐる論争を、これまた新聞やテレビで見ていると、ふと夏にローマのホテルで見たイタリア国営放送RAIの番組を思い出して考え込まずにいられません。 チンチン♪チーンチン♪


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