素人トランプが2か月でプロの大統領になれるのか?

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アメリカの次期大統領選に勝ったドナルド・トランプ氏(70)は、政治経験が全く無く軍属経験もないアメリカ合衆国初めての大統領となる見込みです。70歳にして初の異業種への転職です。果たして年明け1月20日に予定されている合衆国大統領への正式就任に向けて、無事に研修と引き継ぎを終えて、まともな大統領に、いや政治家になれるのか誰もが心配になっていることと思います。

アメリカ合衆国大統領の制度は、日本やイギリスの首相と違い、議会から選任されて内閣を作り議会に責任を負うものではありません。大統領は独立した行政権限を一身に集めています。内閣(キャビネット)のメンバーも大統領が自ら指名し、上院の2/3多数による承認で決まります。上から国務長官(日本で言う首相、外務大臣の役割もする)、財務長官、国防長官、司法長官などと主要なポストが決まっていますが、それはあくまでも行政上の各分野のトップであって、大統領の実務スタッフです。日本で言う閣議のような意思決定機能は持たず、招集して会議を開いても閣僚は大統領にアドバイスをするにとどまります。つまり反対する閣僚が何人いようとも、大統領一人が賛成すれば、大統領の独断で行政権限を執行することができます。

それよりも大統領が重大な政治上の決断をするにあたって、相談相手となる、ホワイトハウスの意思決定スタッフこそが、アメリカの政治では要を握っています。ホワイトハウスを牛耳る大統領補佐官たち。中でも首席補佐官は大統領の右腕であることから、副大統領よりも権限の大きい事実上の米国政治上No.2と言われています。このアメリカ合衆国大統領首席補佐官は、議会の承認を必要とせず大統領が直接選任します。100人以上の直属の部下がいるそうです。トランプ氏としても、政権移行チームを結成するにあたって、首席補佐官を真っ先に決めました。

トランプ氏は大統領首席補佐官にラインス・プリーバス共和党全国委員長(44=写真上)を、首席戦略官・上級顧問には選挙で陣営の最高責任者だったスティーブン・バノン氏(62=写真下)を、それぞれ選任しました。首席補佐官に抜擢されたプリーバス氏は与党共和党のトップであり、議会との円滑な運営を目指す上では妥当な選択だったと僕は思います。ところがわけがわからないのは、首席補佐官と並び称される首席戦略官・上級顧問という肩書です。首席戦略官?なんじゃそりゃ、偉いのか偉くないのか?バノン氏は反主流派で、大統領選の選挙期間中、トランプ氏の過激な外交政策や民族差別、女性蔑視発言などを推し進めてきた張本人です。

バノン氏は過去にゴールドマン・サックスに勤務、保守派ニュースサイトを立ち上げた経歴を持っていて、同サイトをめぐってはバノン氏が先陣を切って「白人至上主義」、「反ユダヤ主義」、「緩い新ナチズム主義的なグループ」へと導いたといった批判が挙がっています。トランプ氏は選挙戦での公約を維持する意味で抜擢したのでしょうが、バノン氏はサイト上で共和党主流派を激しく批判していた経緯もあり、プリーバス氏とバノン氏は水と油の関係です。

ビジネス社会の感覚で、真逆の二人を選んでバランスを取ろうとしたのでしょうが、ホワイトハウスはそのような感覚ではやっていけないと僕は考えます。ホワイトハウス・ウエストウイングという一つ屋根の下で、結束を固めていくための政権移行チーム。それが早くも主導権争いが激化して、内部分裂を起こし、危機に瀕しているようです。トランプ次期大統領の政権移行チームで安全保障を担当していたマイク・ロジャース元下院議員は11月15日、移行チームから離脱すると発表しました。トランプ氏はしょっぱなから采配を間違えていると思われます。政権移行チームの執行委員長であるマイク・ペンス次期副大統領(57)に期待するばかりですが、どこまで修復が可能なのか。

アメリカ合衆国のためにトランプ氏ができることは、まず自分が政治家一年生であることを自覚し、共和党主流派はもちろん民主党クリントン陣営およびその支持者たちとのあいだに生じた亀裂を修復し、謙虚に大統領になるための研修を積むことです。政権移行期間は2か月しかなく、政治的空白は許されません。きちんとした研修を積むためにはホワイトハウスのスタッフに、バノン氏といった自分と同類項や、娘といった身内を起用するのではなく、未経験の政治をじっくり指南してくれる優秀なプロを集めて教えを乞うことです。

70歳。頭の柔軟性もなくなり、頑固になりがちな年齢です。そんな彼がこのまま暴走するのかと思うとゾッとします。アメリカは政権交代するとホワイトハウスのスタッフは総とっかえとなり、日本のように前任者が下で支えることはありません。新しいホワイトハウスのスタッフの中に賢明な人がいて、なんとか彼を軌道修正してくれることを、世界中の人々が願っていると思います。僕も日本から無力ながら祈ります。

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