電通「鬼十則」そのものはそんなに悪くない気がする

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大手広告会社、電通は、新入社員だった女性が過労のため自殺した問題を受けて「取り組んだら『放すな』、殺されても放すな」などの言葉が記されている社員の心得「鬼十則」について、社員手帳に掲載するのを取りやめる方向で検討していることがわかったと、17日のNHKのニュースで報道されました。

去年12月に自殺した東大卒の新入社員だった高橋まつりさんが、電通内で睡眠時間2時間という長時間の残業を強いられ続け、上司からはパワハラを受け続けていたことが明らかになり、労基法違反の疑いで厚労省の強制捜査が入りました。まことに痛ましい事件であったとともに、長時間のサービス残業を当たり前とする旧態依然とした電通の、企業としての業務体制に厳しいメスが入った事件でもあります。電通経営陣はさっそく業務体制改革チームを作り、トップダウンで組織の改善に取り組んでいるとのことです。

その一貫でしょうか、厳しい社則で有名な、電通「鬼十則」を、新年度から社員手帳に記載しないとのことです。しかし僕はその文言を削除したところで、問題は解決しないと考えています。社員手帳への掲載が無くても、上司から「うちには昔から吉田秀雄という人が作った『鬼十則』というのがあってな……。」と説教されれば同じことです。何より問題は長時間労働とパワハラを引き起こす管理職の労務管理能力の低さと、上層部の人権意識の欠落による社内の風土にあると思うのです。バブルから景気低迷期に移り、テレビ万能の時代からデジタルの時代に変化しているのに、業態改革に乗り遅れ、社員の奴隷的労働で乗り切ろうとした方針を根本的に変革しなければならないとも思えます。

社員手帳からの「鬼十則」の文言の削除は、こうした社内風土や業務体制の改革を「可視化」する試みにすぎません。電通お得意のPRとしての可視化です。評価するにはあたりません。むしろ電通「鬼十則」の文言に責任をすり替えて、本質から目をそらし、企業イメージの回復を狙っているようにしか思えません。そんなもので誤魔化されてはいけません。本質は人権意識の問題であり、その本質から目をそらしてはいけないのです。

僕自身は、電通「鬼十則」については、かなり時代錯誤の感はあるものの、全てが否定されるような内容だとは思っていません。むしろどの業界、どの業種にも通用する、有益な名言集としてよく出来ていると思います。また僕自身、その一部を座右の銘として自分に言い聞かせて仕事に取り組み、そのおかげで成功した経験もあります。だから電通「鬼十則」を全面否定すべきではないと考えています。こんな時代だからこそ今、自戒を込めて。

一、仕事は自ら創るべきで、与えられるべきでない。
二、仕事とは、先手先手と働き掛けていくことで、受け身でやるものではない。
三、大きな仕事と取り組め、小さな仕事はおのれを小さくする。
四、難しい仕事を狙え、そしてこれを成し遂げるところに進歩がある。
五、取り組んだら放すな、殺されても放すな、目的完遂までは……。
六、周囲を引きずり回せ、引きずるのと引きずられるのとでは、永い間に天地のひらきができる。
七、計画を持て、長期の計画を持っていれば、忍耐と工夫と、そして正しい努力と希望が生まれる。
八、自信を持て、自信がないから君の仕事には、迫力も粘りも、そして厚味すらがない。
九、頭は常に全回転、八方に気を配って、一分の隙もあってはならぬ、サービスとはそのようなものだ。
十、摩擦を怖れるな、摩擦は進歩の母、積極の肥料だ、でないと君は卑屈未練になる。

たしかに言葉の表現は汚いし、広告マンのセンスも感じられません。でも特に前半部分は、大いに共感するところがあります。

ずいぶん昔の話ですが職場で、とある新人職員がずっと僕について回り、何をしているのだろうと思ったことがあります。すると彼は言ったのです。「杉江さん、仕事を僕に下さい。することがないんです。」と。僕は「仕事は与えられるものではないんだよ。自分で提案を書きなさい。」と優しく諭しました。怒鳴ってやろうかとも思いましたが、僕の職場風土は若手を怒鳴るような風土ではなかったので、丁寧に説明しました。まさしく電通「鬼十則」の一条と二条です。

電通社員のような企業人ではなく、フリーランスの人にも、「鬼十則」は心がけるべき名言であると思います。いや黙っていても給料がもらえるサラリーマンではなく、誰からも命令を受けることのないフリーランスにこそ、この心がけは重要なのかもしれません。

この機会に吉田秀雄のこの文言を、旧態依然とした悪風として葬り去るのではなく、改めて自分に得るものはないか読み直してみるのも悪くないと思いました。

そう言うおまえは実践できているのか? というツッコミはしないでね! まったく実践できていないので。。。

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