「フェイクニュース」を連発するトランプ大統領の真意

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アメリカのトランプ大統領が、就任以来ほとんど口癖のように「それはフェイクニュース(嘘のニュース)だ!」繰り返してきたことは、よく知られていることです。トランプ大統領は、オバマ氏がイギリスに頼んで自分の会話を盗聴していた、と主張し、英国政府から「ばかげている」と否定されるなど、奇行は跡を絶ちません。

トランプ大統領は、マイケル・フリン前大統領補佐官を更迭したと報道されたことについても、会見では「それはフェイクニュースだ」と言いました。続いて更迭したことは事実なのか、と問われると「それは事実だ」と認めていますから、もうめちゃくちゃです。あきらかに矛盾したことを言っているのです。ニューヨーク・タイムズ紙やCNNといった米国の大手メディアに対しては、取材拒否を言い渡すといった、異常なまでのマスコミへの反発を示しています。

— Donald J. Trump (@realDonaldTrump) 2017年2月17日

 

トランプ大統領はこのツイッターのメッセージを発し、主だった新聞社、テレビ局などメディアを名指して「アメリカ人の敵なのだ!」と断言しました。FOXNewsなどの一部の保守メディアを除いて、取材も受け付けない、自由主義国家としては異例の大統領の発言です。とにかく片っ端から「フェイクニュースだ!」と言いまくっているのです。

確かに新聞やテレビなどの報道機関は、大統領などの為政者にとって面白くない、批判的な記事を書くことも当然あります。しかしそれを甘んじて受け入れ、その批判に答えていくことも、大統領の責務であるはずです。少なくともこれまでの大統領は、一部のメディアと時には論争になろうとも、基本的にマスメディアを尊重し、それなりにうまくやってきました。マスメディアには世論を反映し、権力の見張り番となる重要な役目があることを、民主主義の国家の共通の認識として持ってきたからです。

それなのに、これほどまでにトランプ大統領が執拗に主要メディアに対して「フェイクニュースだ!」と言い続けるのはなぜでしょうか。それは昨年の大統領選挙の時に、本当にフェイクニュースが流されたからです。「ローマ法王がトランプ候補を支持」「ヒラリー・クリントンはパーキンソン病を患っている」「ヒラリー候補のメール問題を捜査していた米連邦捜査局(FBI)の捜査官が妻と無理心中」「トランプの政治集会で抗議すると3500ドルもらえた」などというウソのニュースがネット上を飛び交いました。

そう、トランプ陣営が有利になるように、フェイクニュースが使われたのです。自分がフェイクニュースのお陰で大統領になれたもんだから、フェイクニュースの恐ろしさを誰よりも感じています。フェイクニュースはネット上に主に見られますから、トランプ大統領はネット上では自分の発するツイッターしか信用しなくなりました。大統領になった今では、公式見解がいつでも出せる立場にあるのに、まだ自らツイッターで意見を発信しているというのも、合衆国大統領としては奇妙に思えてしまいますね。

実は大統領選挙の時に、ロシアの諜報機関がアメリカにサイバー攻撃をかけ、トランプ大統領を有利に導いたという事実が、ニュースになりかけました。それが表面化すると、大統領選の結果そのものの信憑性に関わる大事件ですから、マスメディアは慎重に扱っていました。そのタイミングでこの話がネット上で早々と出回ったため、トランプはこれを「フェイクニュースだ!」と否定しました。大手マスコミが扱おうとしても、「フェイクニュースだ!」の一点張りで押し通し、彼は今の地位を守ったのです。本当のニュースまで、嘘のニュースだと言い切ってしまったのです。

この時以来、ドナルド・トランプ大統領とアメリカのマスメディアとの関係は、完全に決裂しました。真実を公表しようとするマスメディアと、真実を隠そうとするトランプ大統領ですから、その間の溝は広がる一方です。一般市民の中にも、マスメディア不信の人はいますから、あるいはトランプの作戦も一部では支持されるかもしれません。しかし民主主義の優アメリカ合衆国のマスメディアは、ジャーナリズム精神が強靭で、そう簡単に折れないと思います。

我が国のマスメディアは米国ほど強靭ではなく、また政権側がしたたかなために、実に日本的なやり方でうまく懐柔されているような気がします。真っ向から対立することはなく、程よく情報を共有し、阿吽の呼吸で適当なところへ着地します。それが良いことだと言って良いのかどうかはわかりません。ただそのような予定調和のやり方に慣れている日本人には、トランプのようなストレートなマスメディア否定宣言は、理解しにくいものではあります。トランプ大統領の今の立場が、本当のニュースまでフェイクニュースだと言い切ってしまった上に成り立っていることを知って、少しは理解できるのではないでしょうか。

トランプ大統領がこのままマスメディアとの関係を修復しないまま、はたして政権運営ができるのかどうか、じっくりと見守っていきたいと思います。

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