金正恩トランプ首脳会談と日本

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3月8日に世界を駆け巡ったのは、北朝鮮がアメリカ合衆国に首脳会談をもちかけ、トランプ大統領がそれに合意したというビッグニュースでした。5月までにはそれを実現するとのことです。この首脳会談については、本当に実現するのか、北朝鮮お得意の揺さぶりでは、といった懐疑的な報道も多いようですが、ここでは米朝首脳会談が実現したとして、それが日本にどういう影響をもたらすのかを考えます。

まずどのような合意がなされるだろうか、という分析から。

北朝鮮は一貫してアメリカを脅威と見なし、それに備えるために核武装を進めてきました。そして核保有国と認められ、対等な立場でアメリカと平和条約を結ぶのが悲願でした。一方アメリカは、かつては北朝鮮を東アジアの小国と侮っていましたが、北朝鮮の核開発が進み、ついにはアメリカ合衆国本土に到達する核弾道ミサイルも完成間近となって、ようやく本腰を入れて対応に力を入れ始めた、といったところでしょうか。そんな両者の本音を付き合わせてみると、着地点は自ずから見えてくるようです。

僕はずばり、北朝鮮とアメリカとの二国間による平和条約が結ばれる、という予想をしています。アメリカは北朝鮮を攻撃しない、を条件に、北朝鮮はアメリカを攻撃しない、という合意がなされれば、北朝鮮にとっては悲願の達成であり、トランプ大統領にしてみれば、アメリカ本土を攻撃される脅威を排除できます。アメリカ・ファースト主義のトランプですから、世界の警察などする気はない。アメリカ本土さえ攻撃されなければそれでよい、と考えるでしょうから、北朝鮮がこれ以上核開発を進めるのをやめ、アメリカ本土を射程にしない、という確約が取れればそれでいいのです。

北朝鮮とアメリカの平和条約締結。いかにも世界の平和に大きな前進と見られそうですが、そんな単純なものではなさそうです。まず韓国ですが、平昌オリンピックでの南北統一旗をイメージするまでもなく、現政権は北朝鮮に対する融和、対話の路線を強く打ちだしています。もしかしたら一気に民族統一の悲願の達成へと進むかも知れません。南北分断されているとはいえ、北朝鮮に住む人はもともと韓国に住む人とは親戚関係であります。脅威がなくなり、自由に行き来できるようになれば、ムン大統領の功績として讃えられるでしょう。余談ながらアメリカのトランプ大統領も11月の中間選挙に向けて、支持率アップを図れるでしょう。

さて問題は日本です。拉致被害者問題とノドンの脅威が残っています。

韓国をはじめ世界中が北朝鮮との対話路線になっているにも関わらず、「最大限の圧力」をひたすら掲げてきた強硬派の安倍首相は、振り上げた拳の下ろしどころがなくなってしまいました。8日の合意の後、電話でその旨を告げられた安倍首相は、さっそく「歓迎すべきこと」とコメントしています。4月初旬に訪米する予定ですが、おそらく一方的に米朝和平の方針を告げられるだけでしょう。そして厚顔無恥にも「国際情勢の変化に伴い」などと手のひらを返したように平然と方針転換することでしょう。それは彼のキャラクターだから仕方がないとして、しっかりと米国側に主張してもらわなければならない問題があります。

日本人の北朝鮮への拉致被害者問題は、トランプにとって全く興味のないことですから、それはアメリカに関係ない、日本と北朝鮮の間で解決すること、と無視されると思われます。またノドンなどの既に完成している中距離核ミサイルについては、完全撤廃せよとはトランプは要求しない可能性があります。北朝鮮は中距離ミサイルを持った核保有国として、国際的に認められるわけです。そうなると日本が北朝鮮による核の脅威にさらされたまま、世界中は「平和になったね、パチパチ」と拍手を送ることになります。

もしこのように世界が動くとするならば、日本もアメリカ、韓国の後を追っかけるようにして、北朝鮮と二国間の平和条約を結ばなければなりません。しかしこの時、既に北朝鮮と日本は、対等ではありません。核保有国と非保有国です。振り上げた拳を下ろすどころか、揉み手をして下から平和条約をお願いする立場になります。当然、拉致問題など水に流せと言われれば、へいへいと従わざるを得ません。ひょっとしたら経済援助など無理難題を条件にふっかけてくるかも知れません。アメリカが単独で北朝鮮との二国間平和条約を結んでしまえば、実は日本にとって非常に困った状態になるわけです。

世界で孤立しているのは北朝鮮ではなくて、世界で孤立しているのは日本、という立場に立たされるのを、僕はとても危惧します。そうならないためには、日本がこの北朝鮮との対話という流れに取り残されないようにすることが大切です。4月の安倍首相の訪米が、大きな鍵を握っています。ポチが飼い主に見捨てられないように、精一杯ワンワンと吠えて頂かなければ、と思います。アメリカが北朝鮮に譲歩する際には、ちゃんと完全非核化を条件にしてくれること、ちゃんと日本人拉致被害者問題などの解決を盛り込んでくれること、これらを是非トランプさんによろしく頼みますと、交渉できるかどうか。

僕なら米朝二国間の合意ではなく、最低でも日本を含めた三カ国での合意、もしくは理想的には日米韓中ロを含めた六カ国での合意にすべきだと主張するでしょう。北朝鮮が本当に核を放棄し、東アジアに平和をもたらすには、六カ国による合意が不可欠です。しかしアメリカファースト主義と北朝鮮ファースト主義が結びつくと、米朝二カ国による平和条約の締結という安直な結論に至る可能性を否定できません。

北朝鮮とアメリカの間に二国間で平和条約が結ばれる、というのはあくまでも僕の予想です。あるいは仮定です。もちろんその他の選択肢もたくさんあるわけですが、もしトランプがその方向で会談を考えているなら、日本の立場が不利にならない条件で締結されるよう、ポチが飼い主にかみつくぐらいの覚悟で、4月の日米会談に臨んでもらいたいと思います。

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