お笑い番組もワイドショーも最近は見ない私ですが、関西育ちのせいか「ヨシモト」には愛着があります。吉本の芸人さんたちにも散々笑わせてもらい、楽しませてもらい、育ってきたという自覚を持っています。それだけに今回の所属タレントが反社会的勢力の関与するパーティーに直営業で出演したスキャンダルは、それを扱うマスコミの騒ぎ方や、当事者たちの自己演出も含めて、非常に奇異な印象を受けました。

吉本興行側の反対を押し切って、当事者である雨上がり決死隊の宮迫博之さんと、ロンドンブーツ1号2号の田村亮さんが20日に自主的な謝罪会見を行ったこと。

それを受けて吉本興業の岡本昭彦社長が22日午後2時から、何というタイミングでしょう、参議院選挙の総括をする安倍晋三首相の記者会見にぶつける形で、会見を行ったこと。民放のワイドショーは安倍首相より、当然ですが吉本興業の方を生中継しました。

どちらも3時間以上ある長ったらしいビデオですので、じっくり見る必要はありません。ビデオの印象だけで言えば、吉本興業岡本社長の発言は、芸人さん二人の発言に比べて、いかにも歯切れが悪く、評判が悪いようです。でも記者会見のテレビ映りだけで岡本社長を無能扱いするのは、フェアではありません。芸人二人はしゃべりのプロです。テレビ映りのプロです。好感度のフラッグがどちらに上がるかは、記者会見をする前からわかっていることで、だからこそ会社側は芸人さんに独自会見することを禁じていたのでしょう。

もっとも好感度を上げたのは、松本人志さんでしょう。明石家さんまさんと並んで吉本興業のトップを走るビッグタレントで、発言力もケタ違いです。吉本興業の岡本社長も、事実上の最高責任者である大崎会長も、もとはダウンタウンのマネージャーをしていた立場ですから、松本さんは会社と対等にものが言えるわけです。それが後輩芸人を思いやる発言をしたのだから、まさしく浪花節です。

話はそれましたが、それくらいお涙頂戴の浪花節が演出されていて、ことの本質が見えにくくなっていました。芸能レポーターたちの無能さ故か、意図的になのか、今回のスキャンダルをめぐる報道は本当にひどいものでした。「闇営業」というおかしな用語を巨悪のように振り回すのも、ことの本質を不明瞭にしていたと思います。ことの本質はたった二つしか無く、極めてシンプルなのです。

まず「闇営業」ではなくて、芸人さんたちが普通に使っているように「直営業」という用語を使うべきだったでしょう。所属事務所である吉本興業(よしもとクリエイティブ・エージェンシー)を通さずに、芸人さんが直接依頼を受けて仕事をし、直接報酬を受け取るケースのことです。友人の結婚式の司会とか、良くあるケースであり、受け取った報酬に対してキチンと所得税を納税していれば、そんなに非難されるべきほどのことではないと言えます。

これは吉本興業という芸能プロダクションと、個々のタレントとの間に交わされるべき、専属契約のプライベートな問題であります。吉本興業は、ほとんどの所属芸人さんと契約書を交わしておらず、先日、公正取引委員会から意見を受けました。今後は全てのタレントに対して聞き取り調査を行い、希望する人とは契約書を交わすと言うことですが、どのような契約書になるかは非常に興味のあるところです。

芸能人と芸能プロダクションの関係については、私が以前に産経新聞さんからご発注頂いて書いた記事がありますので、そちらを参照して下さい。これが一つ目の、ことの本質であります。

芸能人の労働問題 「奴隷契約」を公取委のメスは是正できるか

二つ目のことの本質は、今回の営業先が、反社会的勢力のグループが主催する忘年会だったということです。宮迫さんは謝罪会見の中で、振り込め詐欺グループの主催するパーティーだったと知っていたのか、と問われて「反社会的勢力かどうかは、我々個人では判断がつきかねる。吉本のような大きな会社でさえ、反社会的勢力を見分けられないこともあるのだから」と応えています。

吉本興業のように民放各社を株主に持つ大きな会社が、反社会的勢力と関わりを持つとしたら、それはコンプライアンス上極めて大きな問題です。株主総会ものでしょうし、だからこそ岡本社長は大崎会長とともに、年俸を半額返納するという処分を下したのではないでしょうか。別に所属芸人に対して、記者会見をするならクビにすると威圧したとか、パワハラだとか、そういう点に対してお詫びしているという訳ではないはずです。

私はそこの所をあいまいにして欲しくありません。前述の、会社を通した通していない、の件は立場によって意見が変わる難しい問題ですが、二つ目の反社会的勢力との関わりの件は擁護しようがない絶対的な悪です。前者は独禁法や下請法が絡むことはあっても基本的にプライベートな問題ですが、後者は議論の余地もないソーシャルな大問題です。

この二つの問題点をごっちゃにしてワイドショーが浪花節テイストで報道するものだから、私は大きな違和感を感じずにはいられませんでした。タレントの所属問題と、企業の反社会的勢力への関与問題。この二つは全く別の問題であり、決して混同すべきではないと思うのです。

芸能界と反社会的勢力は、興業というビジネスの歴史からして、微妙な問題を抱えていると私は考えています。かつて私の職場でも定例会議の席上、コンプライアンスの徹底のお達しがありました。契約書を交わす時には、反社会的勢力と全く関わらない、という条文を入れるようにと。それを聞いたベテランの職員がボソッとつぶやきました。紅白はできなくなるな、と。笑えない冗談でした。

しかし現代はテロや暴力と断固として戦うべき時代であり、それは国際的にも既に浸透しています。日本最大のヤクザである広域指定暴力団「山口組」も、かつて3万人以上を擁していましたが、この十年で半減しています。ヤクザさえもが合法ビジネスへと業態改革を目指している時代なのです。

今回の吉本興業スキャンダルの原因となった反社会的勢力とは、ヤクザとも呼べないほどのチンケな振り込め詐欺グループだったそうです。芸能人が各自の判断で、依頼元が反社会的勢力かどうかを見分けるのは、実際問題として困難でしょう。だからこそ大手芸能プロダクションは、芸能人の上前をはねる見返りとして、仕事を選ぶ手助けをする、すなわち依頼元が反社会的勢力ではないことをチェックする役割を、完璧にこなさなければならない立場にあります。

芸能は庶民に夢をあたえる仕事です。吉本興業の岡本社長のことは私は全く知りませんが、会長の大崎さんは才能に溢れる秀でたプロデューサーだと直感的に印象を持ち、また尊敬もしています。ここで舵取りを誤って欲しくはない、というのが私の正直な思いです。

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