政治不安という名のイタリアの日常

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サルビーニ副首相vsコンテ首相

イタリアにまたお家芸の政治不安の風が吹いています。まもなく大嵐になる気配です。ジュゼッペ・コンテ首相が8月20日、議会上院で演説し、連立政権内の「同盟」と「五つ星運動の」対立激化を理由に辞意を表明したのです。

連立政権を組む極右「同盟」と左派ポピュリストの「五つ星運動」は、主に経済政策を巡って政権発足直後から対立を続けてきました。その結果「同盟」は8月9日、「五つ星運動」との関係修復は不可能だとして内閣不信任案を提出しました。

コンテ首相は辞任演説の中で、政権危機の引き金となった「同盟」の党首兼副首相のサルビーニ氏は、「個人と党の利益しか考えておらず無責任だ」と非難しました。が、首相に近い「五つ星運動」も「同盟」と大同小異の無責任体質だと筆者は思います。

連立政権発足時には、総選挙で第一党になった「五つ星運動」の力が政府内でやや優勢でした。しかし、最低所得保障制度(ベーシック・インカム)を目玉にする経済政策が嫌われたことなどもあって、同党の支持率は低迷しました。

そうした中、ことし5月の欧州議会選挙では「同盟」が大きく支持率を伸ばしました。強硬な難民・移民政策と並行して、米トランプ政権を真似た「イタリア・ファースト(第一)」をスローガンに、国民の不満をうまく吸い上げて躍進したのです。

2019年8月20日現在、総選挙になれば「同盟」が「五つ星運動」を大きく抑えて第一党になる可能性が高い、と多くの統計が示唆しています。それをよく知るサルビーニ氏は権力掌握に意欲を見せていて、まるで首相のような振る舞いを見せることも多くなりました。

「同盟」の支持率は5月末の欧州議会選挙では34%でした。これは政権発足時からは倍増の数字。むろんイタリア国内では第一党にあたる力強い値です。一方、連立相手の「五つ星運動」は逆に、ほぼ半減の17%の支持率にとどまりました。

総選挙になっても「同盟」は単独で過半数を制することはできません。しかし現在の状況で選挙に突入すれば、「五つ星運動」と完全に手を切って、自身よりもさらに右寄りの小政党と保守派を巻き込み、極右一辺倒の政権を樹立する可能性が高まります。

ところが、幸い、一気にそういう動きにはならず、現時点では敗者にも見える「五つ星運動」が、前政権与党で第3党の民主党にすり寄って新たに連立政権を組もう、と持ちかけました。あわてた「同盟」のサルビーニ党首は強気の姿勢を少し弱めました。が、もはや事態は後には戻らない状況です。

「五つ星運動」と「民主党」の連立の可能性も含めて、今後のイタリア政局の行方はきわめて流動的です。議会解散権を持つマタレッラ大統領は、急いで解散をするのではなく、まず政党間の仲を取り持ち調整をして、新たな連立政権の誕生を模索しようとするでしょう。

そして連立政権構想が頓挫した場合には、イタリアではよくあるように非政治家を首班とするテクノクラートの暫定政権を発足させて、ひとまず当面の政治危機を乗り越えようとする可能性が高い。そのあとで解散総選挙を行うという手順です。

大統領の判断によっては、「同盟」のサルビーニ党首が渇望する即時解散・総選挙のシナリオももちろんあり得ます。それを避けるには、民主党が一枚岩となって「五つ星運動」との連立か中立の暫定政権の発足を後押しすることですが、同党は相変わらず内部分裂を続けていて団結は難しい。

それにしても、極右政党の「同盟」と左派ポピュリストの「五つ星運動」の我欲の強さにはあきれます。彼らは国民そっちのけで政権内の政治闘争に明け暮れ、ついに政権そのものの崩壊を招きました。

左寄りと右寄りの思想信条また行動は政治の常識です。両者の対話と、対話から生まれる妥協を民主主義といいます。まずいのは「極」右と「極」左です。2者は英語にいうExtremistつまり過激な者。極論支持者であり過激論者。要するに過激派です。

彼ら過激派は対話を拒否し、自らを絶対善として突っ走り、究極的にはテロさえも厭わなくなります。極右と極左は異なるものに見えて、実は「極」で融合する一卵性双生児。そっくりさん。なのに仲が悪い。なぜでしょうか。

どちらも吼えまくり、噛みつき、殴りかかる傾向のある厄介者だから、似た者同士でも吼え合い、噛みつき合い、殴り合うのです。それが右派と左派のポピュリスト党「同盟」と「五つ星運動」の本性です。

「五つ星運動「と「同盟」に極左と極右のレッテルを貼るのはどうか、という意見もあります。もっともな話です。右と左は立ち位置によって違って見えます。左寄りの目には中道も右に映り、右寄りの目には中道も極左に見えかねません。

「五つ星運動」は自らを左にも右にも属さない政治勢力だといいます。「同盟」も、私は極右です、とは口が裂けても言いません。だが彼らの正体は極左と極右だと筆者は思います。能があるかどうかは別にして、両者は連立政権掌握中はまだ過激派の爪を隠しお互いに牽制し合っていまた。

だが、牽制のタガが外れたとき、つまり両者のうちのどちらかが単独で政権を握ったときは危ない、と筆者はいつも考えてきました。単独で政権を取れば「五つ星運動」はイタリア共和国をアナキストの巣窟に変えてしまうでしょう。「同盟」が単独で議会過半数を制して政権の座に就けば、ファシズムの足音が高く響き出すでしょう。

彼らは連立を組んで互いに牽制し合うから、政権運営を任せてみる価値が「あった」のです。異なる者同士が手を組んで、お互いの極論を抑えつつ新しい発想で国の舵を取る。彼らに期待されたのはそういう政治でした。

だがそれはしょせん夢物語だったようです。本性をむき出しにして喧嘩ばかりをしていた彼らの連立政権は、両者がそれぞれ単独で政権を握った場合と同じくらいにイタリア共和国のためになりません。

極論者たちは冷静に対話をし、妥協点を見出し、且つ守旧派の政治勢力とは違うめざましい施策を打ち出せないなら、決して一国の政権に就くべきではありません。だが極論者の「同盟」と「五つ星運動」は幸運にもその機会を与えられました。そして見事に失敗しました。

今後の政局の動きによっては、彼らが再び政権与党になる可能性も十分ありますが、できれば過激派と過激派が手を結ぶ形にはならないでほしい。あるいは右の極論者がもうひとつの右の極論者と組んだり、左の極論者がもうひとつの左の極論者と結びつく誤謬は犯さないでほしい、と願います。

とはいうものの、ここは政治には「なんでもあり」の愉快国イタリアです。イタリアの政治は混乱が「常態」です。国民はそれに慣れています。従って何が起きてもおどろきません。根強い政治不信と諦めと、だが冷静な監察力がイタリア国民の十八番。政治混乱くらいでは国は沈没しません。今回の政治危機も恐らく、多くのドタバタ劇を経て、落ち着くところに落ち着くことでしょう。

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