ロシアのウクライナ侵攻以来、ニュースでよく見かけるようになった、民間軍事会社「ワグネル」。え?軍って一つの国に一つじゃないの?ロシアはこんな隠し球を持ってたんだ!と最初は僕も思いました。

自衛隊のように,国軍でさえ武器の管理に厳しくチェックされ、民間人には拳銃一つ持つことが許されないのが当たり前の日本人の感覚として、軍事と民間という言葉は違和感があります。クーデターでもない限り、軍が二つになることはありません。

お金をもらって雇用主のために兵士を戦場に送り込み、銃器弾薬はもちろん戦車や軍用ヘリなど正規軍なみの装備をととのえ,訓練をする民間軍事会社(民間軍事請負企業)は、少なくとも世界に30社以上あります。その中にはアメリカやイギリスも含まれます。

アメリカだけでも、ATAC,ダインコープ・インターナショナル、アカデミ,トリプル・キャノピー、ドラケン・インターナショナルの5社が公開されています。2003年のイラク戦争では、10人に1人は正規軍ではなく、こういった民間軍事会社の従業員が、戦場に送り込まれています。なんとウクライナにも、モーツァルト・グループという会社があります。

傭兵という観点から見ると,歴史は驚くほど古く、東インド会社軍の時代には、既にあたりまえとなっていました。日本にも明治維新の前までは存在しました。歴史的に見ると、最近になって民間軍事会社が生まれたのではなく、そもそもが民間軍事会社の時代であり、第二次世界大戦後にようやく1国1正規軍という概念が、世界中で共有されるようになったのです。

なお永世中立国のスイスでは、自国に資源も大した産業もなく、傭兵を輸出することが唯一の産業となっている時代が続きました。どの国がクライアントになるか分からないので、永世中立である必要があったのです。今ではある国を除いて傭兵の輸出はしていません。ある国とはバチカン市国です。バチカン市国には自前の軍隊がないので、お金を払って守ってもらうしかないのです。

さて現在の民間軍事会社ですが、設立するのは主に正規軍の退役軍人です。特にデルタフォースなどの特殊部隊で活躍したエリート達が重宝されます。いくら鍛え抜かれた軍人であっても、軍隊はその性質上、一般企業に比べてはるかに若い年齢で定年を迎えます。

まだまだ若いのに、と再就職先を探しても、一般企業ではなかなか難しい。なぜなら彼らは物心ついた頃から、戦うこと,人を殺すことのみを徹底的に教え込まれ、それ以外に取り柄がないからです。もちろん他業種で無事再就職して、第二の人生を頑張っている退役軍人も大勢いることでしょう。

でも再就職できず、自分の取り柄を生かしたい、と考える人にとって、民間軍事会社は非常に魅力的に見えるでしょう。士官としての給料は一般企業なみ。民間軍事会社には士官と兵士の二つの階級しかありません。兵士の方は、貧困層の若者をとにかく数多く集めます。鉄砲玉ですから能力もモラルも必要ありません。ロシアのワグネルでは、刑務所に収監されている犯罪者を出してやり、兵士として採用していると言われています。

あまりにもモラルがひどいので、2008年9月17日、スイスのモントルーで、17カ国が採択したモントルー文書で、初めて国際的な規制が始まりましたが、条約ではないので法的拘束力はありません。今のところ無法地帯にはびこる殺し屋集団として、アフリカやアジアの紛争地で片っ端から戦闘を激化させています。

ワグネルは30社以上ある殺し屋集団のうちの1つに過ぎません。彼らを撲滅しない限り、世界に平和は訪れません。そのためには彼らに発注してはいけない、という条約を作るべきです。都合の良いときだけ、彼らを利用するという、先進国のリーダーたちにそれができるでしょうか。それこそG7のテーブルに乗せる必要のあるテーマです。

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6月26日追記:

この記事を書いてから1ヶ月以上が経ちました。6月23日、ワグネルのトップであるプレゴジンが、反乱を起こしてモスクワに兵士達を向かわせ、モスクワまで200kmという所まで一気に進軍しました。わずか24時間でこのクーデターは、なぜか中止されましたが、ロシアで起きた謎の反乱について、近いうちに書くつもりです。

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