結論から言いましょう。答えはNOです。国際連合は今なお非常に大切な国際機関として機能し、世界の平和と安全に貢献しています。

国連総会決議を無視し続ける北朝鮮はどうなんだ? 常任理事国特権の拒否権を行使し、安全保障理事会で制裁決議案を否決するロシアはどうなんだ? 国連憲章に定められた人権を無視する中華人民共和国はどうなんだ?

そんな声が聞こえてきそうです。僕が中学高校時代に授業で習った内容によると、第二次世界大戦の終結と同時に、同盟国軍に勝利したした連合国軍(United Nations)が中心になり、世界に二度と戦禍が及ばないように、平和と人権を守れるように、と1945年に崇高な理念を掲げた国連憲章を定めた国際機関(United Nations)である。地球上のほぼ全ての国々が参加し(今は南スーダンがあるから193カ国かな)ユネスコ、ユニセフ、WHO、国連開発計画(UNDP)、など有名な機関だけではなく、難民高等弁務官事務所(UNHCR)、世界貿易機関(WTO)、国際通貨基金(IMF)、国際原子力機関(IAEA)、国際司法裁判所(ICJ)など、僕がパッと思いつくだけでも10以上の重要な国際機関を持っています。

授業で習った時には、国際連合で最も重要な機能は、平和を維持するための安全保障理事会(国連安保理)である。アメリカ、イギリス、フランス、ソ連(今はロシア)、中華民国(今は中華人民共和国)の5カ国が常任理事国であり、絶対に変わらない。それに加えて非常任理事国として数カ国が加わり(たしか日本も長年専任されている)国連軍を組織することもでき、戦争や国際安全保障に関わる軍事的なことを話し合う。当時の僕の認識では、不埒な戦争を仕掛ける国があっても、国連軍が出ていけば一発で平和に戻せる。という楽観的なものでした。

安全保障理事会の常任理事国には、拒否権というものがあり、5カ国のうち1カ国でも反対すれば、安保理決議は否決される、という重大な盲点に注目していませんでした。2020年8月現在の過去の拒否権の行使回数は、ロシア連邦・ソビエト連邦が116回、アメリカ合衆国が82回、イギリスが29回、フランスが16回、中華人民共和国・中華民国が16回だそうです。意外とアメリカが多いですね。なんとなく中国、ロシアが拒否権発動ばかりしている、というイメージでしたが。たしかに機能停止していますね。

国連軍というのは一度も出動していません。正確に言えば朝鮮戦争における南北国境の警備には、韓国側に国連軍と名乗る軍隊が当たっています。僕も板門店の国境線を見に行ったことがありますが、兵士達は水色のヘルメットにUNと書かれた国連軍の軍服を着ていました。でもどう見てもアメリカ軍にしか見えませんでした。実質的にアメリカ軍である彼らを、国連軍と呼んで良いのかどうか疑問が残るので、僕はカウントしません。

平和維持活動(PKO)における平和維持軍は、国際連合から正式に派遣された武力組織ですが、国連軍とは違います。彼らは戦争が完全に終結してから現れます。戦後の乱れきった地域で、市民の治安を守りつつ、公正な選挙が行われるまで指導します。選挙で新しいリーダーが決まれば、PKOの任務は終了。ただちに撤退します。

実は僕は昔、国連事務総長特別代表という、国連でナンバー2の地位まで登りつめた日本人、明石康さんに単独インタビューをさせて頂いたことがあります。明石康さんが国連にいた頃かな、退職された頃かな、記憶は曖昧ですが、カメラ1台を持って、指定された会議室に入りました。

当時の僕が持ち合わせていた知識は、国連カンボジア暫定統治機構のトップとして、戦後のカンボジアに赴き、見事にPKOを成功させ、和平に導いたすごい人が明石康さんだ、というくらいで、国連についても勉強不足でした。初対面でまず感じたのは、明石さんの英語が、すごい秋田弁なまりだな、と言うこと。英語に様々ななまりがあるのは、皆さんご存じですが、こんなになまりのある英語でも、国際機関で通じるんだ。と驚きました。そんなこと、どうでもいいですね。

カメラを回しながら、国連についての一般的なインタビューを1時間ほどさせて頂き、カメラの電源を切って床に置いて、僕たちは冷めたお茶を飲みました。その時、明石康さんがボソッと言った一言が、僕には忘れられません。

カンボジアの時は良い仕事をできたと喜んだのだけど、ユーゴスラビアの時は国連に絶望しました。PKOどころか、各国が好き勝手に動き、NATOにも裏切られた。ああ、もう国連の時代じゃないんだな、と思い引退をきめました。

明石康

カンボジアのPKOは多少知っていましたが、ユーゴスラビアで何があったのか、ほとんど知らない僕は、返す言葉もなく「ああ、そうなんですね」と言って、冷たいお茶をすすり、これ以上無知がバレないように、そそくさとその場をおいとましました。

賢明なる読者の皆さまなら、明石康さんの言いたいことが解ると思います。それが表題の答えかも知れません。

ちなみに不勉強な僕には、安保理常任理事国がどうしてこの5カ国に決まったのか、なぜ変えられないのか、それさえ説明できません。わかる人はぜひご教授ください。

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6月4日追記:

明石康さんの言葉ほど重みのある話ではありませんが、ちょっとした僕の思い出話をば。

ちなみに僕は2001年5月、ニューヨーク市(NYC)にある国連本部ビルを見学に行きましたが、驚くほど無機質なデザインのただのビル。せめてお土産くらい、と思ってキーホルダーとノートとペンを買いました。このノートの紙質はひどく安物(いわゆる茶色い藁半紙)で、ペンはすぐに書けなくなりました。そうか、これが192カ国の標準なのか、と改めて国際連合はこの192カ国のものであることを痛感しました。

僕たちは安保理にばかり目が向きがちで、そこを見ると確かに機能不全に陥っています。でも192カ国がどれだけ国連およびその関係機関のおかげで、無事に開発が進んでいるかを見ると、存在価値は十分にあると思います。かつてアメリカが年会費を滞納し、ほぼ全額を日本が払っていた時代もありました。国連は基本的に貧乏なのです。国連憲章は崇高な平和と人権をうたった素晴らしいもので、同時期に作られた日本国憲法前文にも似た、理想論を掲げる旗印だと思います。

あと現在も国連幹部職員として大活躍していらっしゃる日本人女性の言葉

国際公務員といっても公務員ですからね。日本の役所と一緒。出世争いのため足の引っ張り合いばかり。私としてはちょっとしたミスも起こさないように、細心の注意をはらって業務をこなすだけですよ(笑)

こどもの頃、国連に憧れて国連に就職したいと思っていた僕としては、ちょっとした脱力感がありましたが、大人になった今は、現実に引き戻していただけて良かったです。安保理改革は絶対に必要だと思いますが、いったい誰がどこから手をつければいいのやら…。

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