一昨日のブログで川で泳ぐときの危険について書きましたが、この夏海辺での水難事故も絶えないようなので、最も見落としがちな知識を書いておきましょう。それはリップカレント(離岸流)のメカニズムです。波の高いところを選んでサーフィンをする、いわゆるサーファーにとっては常識ですが、たまたま波の高い日に海に来てしまった海水浴客の方々には、これを知らずに溺れてしまう方もいるようです。

岸に戻ろうと思って全力で泳いでいるのに、一向に岸にたどり着けない。むしろ岸から離れて、沖に向かってどんどん流されていく。これはもうパニックです。次第に体力も尽きてきて、岸は見えているのに、水泳は得意なのに溺れてしまう。なんなんだこれは!

拾い画像を探していたら、分かりやすい図解が見つかったので、借りてきました。図をよく見てください。左右の白い波が立っている間に、波の立っていない所があります。これが黒い矢印で示された、リップカレントです。波によって岸に押し寄せられた海水は、必ずどこかで沖に戻って行きます。そのルートがリップカレントなのです。

リーフやロックなどの海底が固いサーフポイントでは、波の立つ場所、戻るリップカレントそれぞれが決まっていて、慣れたサーファーなどは沖に出るのに上手くリップカレントを利用します。ところが日本の海岸は多くがビーチポイントで、海底は砂です。砂なので海底の地形はどんどん変わり、リップカレントの場所もその時々によって変わります。

海に入る前によく観察して、ああ波はあの辺に立っているな、リップカレントはあの辺だな、といちおう目星をつけておきますが、数時間も海にいるとそれが変わってくることもあります。海水浴客の方々には、波の高い時は海に入らないのが一番、とアドバイスする人もいます。それはもちろん正解ですが、僕はちょっと違う意見を持っています。

高波そのものは、そんなに危険ではありません。波に巻かれて沈んでも、30秒ほど息を止めていれば、自然に水面に浮かんできます。ジタバタせずに巻かれていればいいのです。おまけに高波の立つ所は、リップカレントでは無く、岸に向かって流れていますから、波に巻かれていれば、自然に岸に打ち上げられます。

危険なのは逆に高波を怖れて、この辺なら波が無いから大丈夫だろう、と海に入ることです。そこだけ波が無いのは、そこがリップカレントである証拠です。押し寄せた波の、沖への帰り道です。当然岸から沖に向かって流れていますから、あれよあれよと言う間に沖へと持って行かれます。それでパニックになる人が多いのです。

津波と違って、通常の高波は、海水が循環しているだけです。沖から岸へと打ち寄せる波は、リップカレントになって沖へと戻っていきます。沖に戻った海水は、左右に分かれて、また高波となって岸に向かいます。自分がリップカレントに乗ってしまったな、と感じたら、泳力のある人は海岸線と平行に、横に泳ぐのが良いでしょう。そして波に巻かれて岸へと戻ってください。

決して潮流に逆らって泳いではいけません。川遊びの回にも書きましたが、自然の流れは、人間の泳力の数倍はあるので、全く体力の無駄遣いにしかなりません。泳力に自信がない人、リップカレントの流れが速すぎた場合はどうするのか。

体力を温存し、そのまま沖へと流されてください。リップカレントは、沖にはありません。そこで海岸線と平行に横に泳いで、なるべく波の高い所を目指してください。そこで高波に巻かれて、岸辺に打ち上げられましょう。リップカレントに乗っていると、このまま黒潮まで流されてしまうのではないか、という恐怖を覚えますが、そんなことはないのです。

ここまで書いてきたのは、多少は泳力がある人、そして波に巻かれても気にしない、という人が前提です。波に巻かれるのは絶対嫌だ、という方はリップカレント以前の問題です。ライフガードのいる海水浴場で、波の高くない日に海に入りましょう。

あとよく耳にするのは、浮き輪やビーチボールが、どんどん沖に流されてしまった。それを追いかけて海に入ったら溺れてしまった。という例です。自らリップカレントに飛び込んでいるようなものです。家族連れで海に遊びに来たお父さん、お母さん。子どもに良い所を見せようと、ボールを取りに行くのはやめてください。

「ああ、リップカレントに持って行かれたな」と平然と諦めるのが、大人の知恵の見せ所です。その機会に、こどもたちにリップカレントのことを教えるのも、良いかも知れません。

###


See more of Yoshihiro Sugie OFFICIAL

Subscribe to receive the latest posts by email.

Your Comments

This site uses Akismet to reduce spam. For more information on how comment data is processed, please click here.