「飼い犬に手を噛まれる」という表現がありますが、実際に飼い犬に手を噛まれた時、悪いのは犬でしょうか、それとも飼い主でしょうか?

僕は飼い主だと考えています。犬という動物は、正しく調教しないと、人に噛みつく生き物だからです。もともと群れの中で暮らし、上下関係を意識する動物なので、誰が親分なのか知り、自分より上の生き物には非常に従順です。

2023年6月23日から25日にかけて、ウクライナへ侵攻中のロシアで起きた「ワグネルの反乱」は、まさにプーチン大統領が、飼っていた狂犬エフゲニー・プリゴジンに手を噛まれた事件と言っていいでしょう。ウクライナの最前線でロシア軍とともに戦っていた、民間軍事会社ワグネル・グループの民兵たちが、一転してロシアのロストフ州に入り、あっと言う間にモスクワまで200kmの所まで攻め込んだのは、皆さんご存じの通りです。

民間軍事会社については、5月中旬に「民間軍事会社って何?」という記事を書き、一般論としての説明をしているので、そちらをご一読ください。しかしプリゴジン率いるワグネルに関しては、かなり事情が違うようで、当時書いた一般論が当てはまりません。

エフゲニー・プリゴジンはオリガルヒ(ロシアの財閥)でもあり、軍人というよりも、非合法な事業で財をなして「ウラジミール・プーチン大統領の料理番」と呼ばれるほど、クレムリンに近い存在になっていました。自家用ジェット機を数機と、サンクトペテルブルクの豪邸を持ち、富豪だったのです。

「ワグネルなどという組織は、法的には存在しない」とプーチンは明言しましたが、実際にはかなりプリゴジンを頼りにしていたようです。ロシアには他にも民間軍事会社がいくつもありますが、ワグネルに取って代わる組織が1ヶ月経っても現れないことから、僕はそう考えます。

プリゴジンの問題と、配下のワグネル戦闘員2万5000人の問題は、分けて考えなければならないでしょう。プリゴジンが反乱の後、ベラルーシに亡命させられたのは、そうすれば取りあえずロシアの国内法で、プリゴジンを裁く責任を留保できるからです。一方ワグネル戦闘員については、ロシア国防省と契約を結んで正規軍になるか、それともプリゴジンと一緒にベラルーシに行くか、プーチンは選択肢を用意しました。

「裏切り者は絶対に許さない」というプーチンの立場からすると、遅かれ早かれ、プリゴジン本人は処刑されるはずです。それがなぜ今ではないのか。それは僕には分かりません。情報があまりにも少なすぎるからです。僕たち個人は、一次情報に触れる機会は極めて少なく、他のマスコミが伝える二次情報を元に書くしかない。と常々言ってきましたが、プリゴジンに関しては各国の大手マスコミさえ、二次情報に頼らざるを得ず、我々は三次情報で分析するしかありません。

プーチンは何を考えているのか。飼い犬に手を噛まれて赤っ恥をかいたプーチンは、今のところプリゴジンに関しては、何も情報を出そうとはしません。このことから考えられるのは、忘れられる利益、を狙っていると思われます。どんな厄介な問題でも、情報をマスコミに与えず沈黙を守れば、時間とともに忘れられて行きます。

政治家の手法としては基本的なもので、日本でも例えば高市早苗の総務省疑惑も、なんら解決してないのに、マスコミでは話題にならなくなって行き、あたかも何も無かったかのようになります。これが、忘れられる利益、です。まあ僕はニュース性がなくなっても、何度でも蒸し返してしつこく書きますが。

話がそれましたね。とにかくプーチン大統領にとっては、飼い犬に手を噛まれた「プリゴジンの乱」は、早く忘れて欲しい話です。人々が、ああ、そんなこともあったね、と言う程度に忘れた頃、さりげなくプリゴジンを暗殺するのではないでしょうか。

話はここまでです。

ちなみに一次情報、二次情報という話を僕はよくします。個人では一次情報に触れるのは極めて困難である、と書いていますが、頑張れば不可能ではありません。

例えばソ連の崩壊はいつだったでしょうか。どのようにして崩壊したのでしょうか。教科書的に1991年12月25日、あるいは1988年から1991年にかけて、と答える人はなかなかの勉強家だと思います。もちろんWikipediaなどで調べることもできます。

でも本当の一次情報が公開されたのはその30年後、2020年のことです。外務省のホームページに当時の外交官と政府のやりとりが載っているので、チャレンジャーな方は探してみてください。良い情報収集の練習になると思います。

そんなヒマはない。でも一次情報とやらを見たい。という方には、今僕の手元にある資料をPDFでアップしておきますので、ダウンロードして読んでみて下さい。

どうですか? 全部読む気になりますか? へえ、外交官ってこんな仕事をしていたんだ、と思ってもらえたら、一次情報というもののイメージが理解できると思います。

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9月7日追記:そうそう肝心のプリゴジン氏ですが、8月23日ごろ、プライベートジェット機に乗ったまま撃墜されましたね。マスコミもほとんど騒がなかった。プーチンに反旗を翻して、生きていられるわけがないので、誰もが予想したことでした。ジェット機の撃墜という手法にも目新しさはない。こうしてニュースバリューのないまま、消されました。こういうのを「消される」というのです。命だけではなく、存在そのものを否定し、忘れられて行く。ちょっとは話題に出してあげたかったな。

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