知ってるようで知らないキャスターとアナウンサーの違い
テレビの画面に出てニュースを読む人のことを「アナウンサー」と呼ぶもんだと、シンプルに考えている人は意外に多いんじゃないでしょうか。これは全く大きな勘違いです。ニュースキャスターとアナウンサーは、全く別の職種なのであります。ニュースキャスターは、記者やジャーナリストが務める場合もあります。一方アナウンサーは「話し方」のプロです。アナウンサーは番組のナレーションをしたり、娯楽番組の司会進行をするのも仕事のうちです。このような職業の名称をいい加減にしていると、大切なことに気がつかないことになります。
池上彰さんは、僕と一緒に『週刊こどもニュース」を立ち上げた1994年より以前は、『首都圏ニュース845』というローカルのニュース番組で、記者でありながら画面に顔出ししてニュースを読む、という仕事をしていました。それ以前は警視庁や宮内庁担当の記者をしていました。記者の仕事はニュースを取材して原稿を書くことです。池上さんは首都圏ローカルのテレビに出ている時期、街の人から「あら、NHKのアナウンサーの方ですよね。」と声をかけられ、いちいち「僕はアナウンサーではありません。記者です」と説明するのに苦労したと言っていました。
こういった職業の名称について詳しく正確にお知りになりたい方は、拙著「ニュース、みてますか? (ワニブックスPLUS新書)」をお買い求めになって、第2章の56ページ「アナウンサーと記者の仕事」、58ページ「ジャーナリストって何をやってる人?!」あたりをご一読いただければスッキリすると思います。(ちゃっかり宣伝ですね)。というわけでその辺の用語関係はスッキリと切り分けられているものとして、話を先に進めたいと思います。
この年末のクリスマス12月24日には、テレ朝『報道ステーション』の人気キャスターである、古舘伊知郎さんが今年度いっぱいで、報ステを降板することを発表しました。これについては坂井万利代さんの投稿記事「古舘伊知郎さん降板の本当の理由」に詳しく述べられています。古舘さんはもともとはプロレスの実況中継で人気の出たアナウンサー出身ですが、報道番組のキャスターを務めるようになってからは娯楽色は薄れ、今では立派なジャーナリストになられています。「ニュースキャスターも自分の意見を言って良い」という彼の主張の中に、それは感じ取ることができます。30歳の時に勤めていたテレ朝を辞めて、フリーになったこともジャーナリストであることを裏付けています。フリーのアナウンサーと局アナでは、雲泥の差があることを後に述べさせていただきます。
正月があけると、今度はNHKの『クローズアップ現代』のメインキャスターを25年続けてきた、国谷裕子さんがやはり今年度いっぱいで番組を降りることが明らかになりました。プロデューサーは続投を上申していたと言いますから、降りさせられたのでしょう。国谷さんがNHKの職員だと思っている人は大勢いるようですが、国谷さんはたった一度もNHKに「雇われた」ことはありません。フリーのキャスターとして一年契約で出演契約を更新して、ここまできたのです。そもそもの国谷裕子さんとNHKの関わりは、NHKニュースの同時通訳の仕事を、若い頃の国谷さんが引き受けたことが縁になります。驚くべき出自の方ですが、通訳からニュースキャスターへ転身とは、いろいろな道があるものですね。
同じくクリスマスに、TBS系列の『NEWS23』を今年度いっぱいで去ることを表明した、毎日新聞の岸井成格さんは、バリバリのエリート政治部記者で主筆まで勤め上げた人物です。まさにジャーナリズムの王道を生き抜いた、ジャーナリストの中のジャーナリストです。これくらいの大物になると、怖いものなど何もなくなるらしく、昨年9月には『NEWS23』の中で「安保法案は憲法違反であり、‟メディアとしても”廃案に向けて声をずっと上げ続けるべき」と発言して物議を醸し出しました。いくら大物でも、ニュースキャスターが政治的な持論を展開してはいかんという意見が多い中、「一人ぐらい極論を言う人がいても、番組全体として、あるいは局としてバランスが取れていれば良いのでは」と僕は思います。さらに局にバラツキがあっても、日本の報道全体としてバランスが取れてれば良い、とさえ思います。
さて来し方行く末は異なっても、三人三様、誰からも束縛されずに、自らのスタッフを信じて正しい情報を伝えようとしたという共通点があります。彼らは所属ではなく個人として発言してきました。だからこそ番組に説得力があったのでしょう。これはその後の番組を引き継ぐという「局アナ」では真似しようもないことです。局アナはサラリーマンであり、社畜であり、辞令一枚でどこにでも飛ばされる身です。そうではない古舘、国谷、岸井の三人が、2016年3月まで日本の主要なニュース番組のアンカーを務めてくれたことは、忘れてはなりません。
2016年夏には衆参ダブル選挙が控えているという憶測が飛び交っています。それまでの貴重な期間、2016年4月からを日本の報道はどうあるべきでしょう。局アナの世界は、上意下達の徹底した体育会系の世界です。NHKの朝イチの生放送中に、スタジオに現れた渡邉あゆみアナウンサーの姿に、有働由美子は直立不動になったまま司会を続けたと言います。彼らはしゃべる事の達人であり、職人でもあります。ただ、必ずしもジャーナリストではありません。彼らは個人としてしゃべるのではなく、局の公式見解としてしゃべるのです。
いずれにしても局の上層部がコントロールしやすい現場になることでしょう。僕のような放送プロデューサーの立場からいうと、面白さの点では、キャスターの人選なら、ジャーナリスト>フリーのアナウンサー>局アナ、という順番になりますので、今後は作っていて面白くない現場になるだろうな、と心配します。一方安倍政権にとってはやりやすい体勢になるでしょう。反論する人がいなくなるから。さてさて凶と出るか吉と出るか。すべては新体制でのキャスター人選と本人の肝っ玉にかかっています。
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国谷さんをテレ東がとるというのはどうだろう。
池上彰と2枚看板で、政治家とかそのブレーンを呼んで火あぶりにする。
辛坊治郎と対決させるのも面白そう。
いずれにしても国谷キャスターを降板させたNHKが「ほぞを噛む」企画をするバイタリティが民放に欲しい。
以前、池上彰さんが報道ステーションのキャスターの候補に入っていると聞きました。
報道ステーションのキャスターを池上彰さんに私も積極的に引き受けてほしいです。
官邸からガンガン電話がかかったら着信拒否にし、楽しい番組にもなると思います。
池上さん説は願望であって、実際にはスケジュール的に無理だと思いますよ。でもそれクラスのジャーナリストにキャスターを務めてもらいたいですね。
そうなんですか(涙)。池上彰さんだと期待していたのですが…。
安住アナウンサーも候補に上がっていると聞きましたが、人の良さで
「もしもし管ですか」の官邸からの電話に対応してしまいそうです。