日本国憲法の前文は”Amazing grace”である
アメリカ合衆国の人々にとって、第二の国歌とも言えるほど親しまれ、特別な意味を持つ賛美歌が”Ämaging grace”です。結婚式など特別な日に歌われます。この歌はイギリス人のジョン・ニュートンという人が晩年に作詞しました。ですからアメリカ製ではありません。イギリス製です。それがなぜアメリカ人にとって、第二の国歌となりうるのか。
ジョン・ニュートンという人は若いころ黒人奴隷を乗せた船の仕事をしていました。いわゆる三角貿易です。奴隷船の中で黒人は家畜以下の扱いをされ、多くは船の中で死んでいました。ジョンの船はある日ひどい嵐にあいました。沈没寸前の船の中で、彼は神のご加護を祈り続けました。しばらくすると天候は奇跡的に回復し、船は沈没を免れました。これをきっかけに彼は奴隷貿易から足を洗い牧師になったのです。
“Ämaging grace”(素晴らしき神のご加護)というのは、奴隷船貿易時代を悔いた歌です。黒人たちにあんなひどい仕打ちをした、こんな罪深い自分なのに、そんな私にまで神は光をあたえてくれる。私は一度道を誤った”lost”、だけど今は道を見出した”find”なんという神の御加護であろうか。という気持ちが込められた賛美歌です。他の賛美歌とは違うのです。
イギリス製のこの歌がなぜアメリカ人にとって特別なのか。それはアメリカ合衆国の歴史を見ればわかります。アメリカもまた奴隷制の時代があり、黒人を人として扱ってこなかった、大きな罪を引きずっています。その罪の歴史を乗り越え、しかし罪は忘れず、今は神の御加護で赦されたい。”Ämaging grace”を歌うことで、「過去に黒人にひどいことをした私たちだけど、今は改心したので許しお導きください」と祈っているのです。
僕にはアメリカ人にとっての”Ämaging grace”と、日本人にとっての「日本国憲法 前文」が相似形に見えます。アメリカ人にとっての過去の奴隷制度、日本人にとっての太平洋戦争、それらはどちらも暗い過去です。目を背けたくなる歴史であろうとも、忘れることはできません。むしろそれを教訓として学び、その経験から得たものを前につなげていこう、というのが”Ämaging grace”によって人種差別をなくし、「日本国憲法 前文」によって戦争をなくすことなのです。どちらも自国産じゃないところも似ています。
僕は今月からスタートしたサイト「みんなで作る改正日本国憲法」をいじるに当たって、まず「前文」で悩みこんでしまいました。読めば読むほど実によくできていて、下手に手を入れられないのです。法律の文章というよりは、二度と戦争はしたくない、という叫びのような、この世から世界中から戦争をなくしたいという祈りのような、不思議な文章です。おかしな言い方ですが感動するのです。ジョン・レノンの”Imagine”を聞いたときのように。それは国々がというよりも、この地球から、人類から、戦争をなくそうという崇高な宣言としても読めます。こんな文章は人類の歴史上、二度と現れないでしょう。
「憲法に平和主義と書いておけば平和になるのなら、『台風は来ない』という条文も入れておけばいい」と、非現実的な憲法を皮肉る人もいます。もちろん自衛隊は必要です。自衛軍と呼んでもいいでしょう。そのため憲法第9条は改正してもいい、というのが僕の考え方です。実情に応じて。集団的自衛権も言わずもがなです。ただ安倍総理のやり方で許せないのは、憲法を変えてから法律を変えるのが順序なのに、逆さまにして先に法律の方を変えてしまい(違憲立法状態)、後から憲法を変えようとしていることです。ともあれ9条と96条は改正してもいいと思ってきました。安倍さんも当初はそう言っていました。なのに実際は憲法違反しまくりです。
このような暴君が現れた時に、縛りをかけるのが憲法の役目ですが、自民党草案(右翼団体の日本青年社が作成)を見ると、総理大臣への縛りを強くするどころか弱くし(緊急事態法)、国民の自由を守る基本的人権よりも公益や公の秩序を優先し、逆に国民に縛りをかける憲法にしようとしているようです。それらはおいおい追求していくとして、とりあえず「前文」についてのみ。
何度読んでも感動します。これは地球上の人類全てに、平和を呼びかける世界的メッセージを含んだ詩です。書き手は古き良き時代の、アメリカがまだ青春だった時代の、理想と夢を託した一編の叙情詩です。9条改正で絶対的平和主義を失った今、せめて前文だけでも歌い上げたい世界文化遺産とも言える名文です。僕は結局、旧仮名遣いを新仮名遣いに修正しただけで、もう手がつけられなくなりました。
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ysugie
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碓井真史さん(社会心理学の学者が、子供向けに分かりやすく現行憲法の前文を
書いていらっしゃいます。
私はこれを読んでも、胸が打たれます。
http://bylines.news.yahoo.co.jp/usuimafumi/20140503-00035018/
参考になるかも、と思い、私が6年間受けた
福岡の和白東小学校での反戦教育を書きます。
8月9日には学校の一階の廊下に、長崎の原爆投下後の
写真が並べられています。
その後、体育館で「はだしのゲン」の映画を見ます。
映画を見終わった後、講演があります。
私達にとってなじみの深い特攻隊は、敵の戦闘機に
突っ込め、という命令、思想自体が尋常ではないということ。
特攻隊の亡くなれた方の多くは「家族への思い」しか
残されていない、大変悲しい戦争だったということを
学びました。
改正するなら、改正の意図を表明するためにこんな簡潔な前文はいかがでしょう。
我々日本国民は、戦争には勝者も正義もなくただ人類の悲惨があることを学び、恒久の平和を希求して憲法を定め、国民主権、三権分立の民主主義のもと人権と自由を守り今日の繁栄を築いてきた。
ここに憲法を改正するにあたりこれらの諸原則をさらに堅固にし、日本国民と日本に居住するすべての人々に一切の差別なく適用されることを将来にわたって約する。
日本国民は、いずれの国の国民も等しく自身の文化を愛することを自覚し、専制と隷従、暴力と貧困の恐怖を克服しようとする国際社会と協調して、法と高い人間倫理による、よりよい人類世界に貢献することを誓いこの改正憲法を確定する。