トランプ氏はモンロー主義に戻りたい米国民の本音を語っている

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11月の選挙でドナルド・トランプ氏がアメリカ合衆国大統領になろうとなるまいと、米国民の本音は「アメリカ・ファースト」であることに変わりはありません。言ってみれば、よその国のことはどうでもいい、外国の問題に関わるのはやめて、アメリカ人の幸せだけを考える政府にしよう。という非常に内向きな考え方です。その考え方が今や主流になろうとしています。

日本や韓国、あるいはヨーロッパにアメリカ軍を駐留させたり、アフガニスタンやイラクに攻撃をしたり、と「世界の警察官」と呼ばれるくらい積極的に外交上のリーダーシップをとってきた昨今のアメリカしか知らない僕たちには、にわかに信じがたいことです。けれどもこのような外交に積極的なアメリカの姿は、アメリカ建国以来の歴史を見ると、ここ70年あまりの一時的な姿にすぎないことが分ります。本来のアメリカは、もともと、とても内向きな国だったのです。

1823年、第5代アメリカ大統領のジェームズ・モンローが議会で演説して提唱した外交方針であるモンロー主義というのがあります。アメリカ合衆国は南北アメリカのこと以外には口を出しませんよ、ヨーロッパはヨーロッパで好きにやってください、と明言したのです。モンロー主義とは、典型的なアメリカ孤立主義だとも言えます。食料自給率も十分にあり、工業生産力も国内で十分にまかなえるアメリカは、ややこしい海外の問題にわずらわされることなく、自分たちだけで全てやっていける。そんな時代が長く続きました。事実、第一次世界大戦が始まり、ヨーロッパが大もめにもめていた時も、アメリカは我関せず、と中立な姿勢で客観的に眺めていました。

それがそうも行かなくなり、海外派兵するはめになったのは、1941年、第2次世界大戦で日本が真珠湾攻撃を仕掛けたのがきっかけです。さすがにアメリカ本土を軍事攻撃されたとあっては、黙っているわけにはいきません。アメリカは大々的に太平洋艦隊を繰り出すことになり、遠く極東へ、あるいはヨーロッパ戦線へと軍事力を発揮する国へと豹変しました。アメリカ軍の国際的影響力の強さには、当のアメリカさえ、この時初めて気がついたとも言われています。世界最強の軍隊アメリカ軍の誕生です。

おりしもロシア革命が起きてソビエト連邦という巨大な社会主義国家が生れ、中国共産党と共に、世界的に共産主義の勢力をぐいぐい伸ばしていく時代になっていました。ソ連の軍事力増強にともなって、それを阻止するためにアメリカ軍もその力を増強せざるを得ません。ソ連とアメリカは競い合って軍備増強をしました。いわゆる東西冷戦です。米ソが直接対決することはなくても、自由主義国と社会主義国の間に挟まった小国では、米ソの代理戦争とも言うべき紛争が絶えませんでした。その典型的な例がベトナム戦争です。

ベトナム戦争でアメリカ兵6万人をふくむ多大な犠牲者を出し、疲弊したアメリカは、アメリカ軍に犠牲者がでることに懲りごりしましたが、それでも冷戦構造の中で自由主義を維持するために、西は日本、韓国と言った東アジアへの駐留軍、東はヨーロッパでNATO軍に積極的に兵を送ることを怠りませんでした。やがてベルリンの壁が崩壊し、ソ連という国がなくなり、東西冷戦の時代が終わります。相手を失ったアメリカ軍は、一人勝ち状態となり、成り行き上「世界の警察官」という立場になったのです。

しかし「世界の警察官」というのを続けるのは、決して楽ではありませんでした。もめ事の多い中東に出かけて行っては恨みを買い、911のようなテロにも見舞われます。反撃するためにアフガニスタンへ攻撃して、タリバンという反抗的なグループを生んでしまったりします。よせばいいのにイラクへ武力攻撃を加えて無政府状態に陥らさせ、ISのような「アメリカ憎し」、といったグループが生れてしまったり、といったロクでもないことばかりが起こります。

そうこうするうちに、アメリカ国内の経済が上手くまわらなくなり、財政難におちいりました。アメリカといえども、軍事費をむやみにつぎ込むのは、どうにも苦痛になってきました。世界中の出来事に干渉する余裕が、アメリカにも無くなってきたのです。そこで「世界の警察官」という役割を返上しよう、もうこれからはアメリカはアメリカ国内のことだけ考えよう、というのがトランプ氏の主張です。まさにモンロー主義の時代に戻ろうと言うわけです。

アメリカの一般国民にも、同じような考え方があります。アメリカ人が内向きなのは今に始まったわけではありません。アメリカ人で海外旅行をする人の割合は、もともと非常に少ないのです。世界一すばらしい国に住んでいるのだから、なにもわざわざ不自由な国に出かけていく必要はない、という考え方をする人が、アメリカの庶民には多くいます。みなさんがアメリカに国際的なイメージを持つのは、ニューヨーク・シティを思い浮かべるからかもしれません。NYCはアメリカの中でも異端です。マンハッタン島にはアメリカ人は5分の1くらいしか住んでいません。国際都市なのです。

それ以外の、大多数のアメリカ人の中には、外国はおろか自分の州さえ出たがらない人が大勢います。ジョージ・ブッシュ元大統領は、生れてから大統領になるまで3回しか海外に出かけていません。それで国際感覚を身につけようというのは無理な話です。結論からいうと、田舎者のアメリカ人がもとの田舎者に戻ろうとしている、そういう話です。食料自給率が130パーセントを超え、かつては中東に頼っていた石油さえ今ではシェールガス革命で、自国で十二分まかなえるようになりました。もはや中東に関わる必要は無くなってしまったのです。

東西冷戦が終わり、エネルギーも中東に頼る必要がなくなった今、トランプ氏のような人が大統領候補として登場するのは、あるいは必然だったのかもしれません。世界と関わっても何もいいことはない。確かにアメリカにとってはそれは一つの正解かもしれません。アメリカ自体はそれで良いでしょう。ただアメリカに多くを依存している日本のような国は、これからどうすれば良いのでしょうか。食料自給率が40パーセントを切り、石油も出ない、エネルギーをほぼ海外に頼っている加工貿易国の日本としては、今さら鎖国するわけにもいきません。

アメリカに頼らず真の独立国として、どうすれば世界の諸国と良好な関係を築き上げていけるのか。トランプ氏が現れた今こそ、日本人自身が自問するテーマだと思います。

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5 thoughts on “トランプ氏はモンロー主義に戻りたい米国民の本音を語っている

  1. アメリカの調査会社によると、世論調査の平均値で、初めてトランプ氏の支持率がクリントン氏を上回ったとか。
    アメリカが内向き孤立主義に走ると、世界ではその隙を埋めるように海外に進出しようとする勢力が現れるのが、遺憾ながら、今日の国際社会だと思います。
    海外のアメリカ軍を引き上げてその予算で火星にアメリカ人を送り込むというなら、ちょっとワクワクしますが・・・

    1. 新たにアメリカに替わる世界覇権国が現れるでしょうか?日本は問題外。やはり中国とEUROが勢力を伸ばそうとしそうな気もしますが、安定感に問題がありそうです。覇権国家という概念が姿を消し、各国が独自に外交を進める時代になりそうな気がしています。そうなると注目すべきはEUROではないでしょうか。

      1. 実際に「派遣国家」を役割を果たせるとは思えませんが、「アメリカの軍事的覇権によって独占状態だった市場への進出」という意味合いでは、世界へ出てゆこうとする動きはあると思います。
        「何かになろうとする」動きというのは、病気の急性期と同じくらいの危険をはらんでいるでしょう、それがちょっと怖い。
        西洋医学的な考えでは、急性期に対しては、症状をたたく薬か手術であることを考えると、軍事力の急性期にも西洋流の対応がなされると考えます。
        世界の秩序(ある意味覇権によって達成されることが多い)に、東洋医学的な「未病を癒す」的な考えで対応することはありますまい。

  2. オーランドの銃乱射テロに対し、トランプ氏は、「(それみたことか)イスラム教徒の入国は禁止だ(と言ってきた俺は正しいだろう)」と息巻いているけど、アメリカにすでに多数いるイスラム教徒「ホームグロウン」テロリストによる国内銃犯罪じゃないか。外から来るんじゃなくすでにいるんだ。

    1. トランプ氏が勝ちましたが、仮に公約通りイスラム教徒の入国を拒否しても、すでに大勢のイスラム教徒がアメリカ国内には暮らしていますからね。彼らを差別視し圧迫すれば、それこそ「ホームグロウン」のテロリストを生む土壌になりかねないですね。

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