プールのおねいさん
お金の乏しい僕は、行きつけのジムのプールで泳ぐことだけが、今や唯一の楽しみとなっております。
で虎ノ門にあるそのジムでは、ごくりと唾を飲むほど綺麗なおねいさんがスイミングのコーチをしていたりするのですが、僕はレッスンを受けることもなく、ただガツガツと泳いでおりました。
こちとらだって一応スキューバダイビングの現役インストラクターだいっ!
水泳だって心得てらぁ!
息こらえ潜水は、こないだスリランカのプールで計った時で、現役時代の4分代より落ちているとはいえ2分51秒の記録。
『海猿』実技試験をクリアするレベルの現役だぜい!
といった自負があった。
でぶっちょのオヤジに混じって、小娘に水中エアロビクスだのアクア・コアだのお遊戯みたいなの習ってたまるか!
というマッチョなプライドを、正直いって捨てきれなかった。
昔テレビで入団したての清原選手が、持久力のアップを監督から命ぜられて、エアロビクス・ダンスをさせられ、その光景がテレビで映されて悔しさで泣きそうになっているのを目撃して以来、オトコノコとして最大の屈辱だと思っていた。
反面、雑誌ターザンのモデルみたいなおねいさんが、にこやかに水着姿で惜しげもなく美貌とスタイルの良さを見せつけ、大股開きになり、
「はい!おしりの穴を、きゅっと絞めてみて下さい♪」
「そうそう、こんな感じ、ちょっと私がお手本見せますね♪」
なんて言っている声が、どうしても泳いでいる僕の耳に入る。
うっかり、スケベ面をさらしてなめ回すように眺めてしまわないためには、プールに入ったら速攻ゴーグルを付けて黙々と泳ぐしか選択肢はないのであります。
つまり内心、生徒となってるオヤジたちがうらやましくて仕方がなかったのであります。
さぞかしレッスン料が高いんだろうなぁ、と指をくわえていた僕ですが、なんと今日、レッスン料は何回受けても無料だということが判明したのです。
ついに僕は自分の心に正直になることにしました。
「あのー、初心者なんですが、よろしくお願いしますっ」
おずおずと参加する僕。
おねいさんはビックリした顔をし、
「だいぶ泳いでいらっしゃるようで…教える方が緊張してしまいます(笑)」
「いえいえ我流です。本当に初心者なんです」
まず水泳のフォームを直してもらう。
クロールのリカバリーの時に力が入ってると指摘され、力を抜こうとするが、その僕の二の腕のあたりに甘い感触が…。
「このあたりへ、すうっともってくるの、そうそう」
おねいさんが僕の腕をつかんで、やさしく導いてくれているのである。
ヤバイ。
さらにフィンキックのフォーム。
「スギィさんは力が入りすぎてお尻が動きすぎてるの」
と指導される。
「そんなに腰を使っちゃダメ」
と可愛い声でおっしゃる。
「いい?わたしのお尻を見ててね、これが良い動き」
バタバタバタ…。
あー、見ててね、と言われてもこれ以上見るのはちょっと…。
「スギィさんのは動きすぎててこんな感じ」
バタバタバタ…。
うー。
「どう?わかった?」
ハ、ハイ、わかりました。
どうでも良いけど、そんな真剣な顔をして見つめないでくださいっ。
コイヲシテシマイソウ・・・・・。
ysugie
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