防衛予算の使い方について思うこと
政府は自衛隊などにかかる年間の防衛費を、GDPの2パーセントまで引き上げようという予算案を組んでいます。アメリカ合衆国のトランプ大統領は、3.5パーセントくらいに引き上げるのが妥当だと要求してきました。トランプにベッタリの某日本国首相は、よろこんでそれをのむかも知れません。
それが高いのか安いのか僕にはさっぱり判断がつきません。国際安全保障の専門家ではないし、国家財政の専門家でもないからです。ですので今は、その話は一旦横に置いておくとして、今日は自衛隊の話をしたいと思います。自衛隊のことなら多少は僕にもわかります。自衛隊にいた友人が結構いるからです。そこから漏れ聞こえてきた話をしましょう。
自衛隊といえば最近では例のクマの駆除で、秋田県から依頼があったということで、物々しい制服姿で駆り出されたという陸上自衛官の写真が目につきました。鉄帽、背面に金属プレートが入った防弾チョッキ、熊スプレー、クマと距離をとって威嚇するための木銃(もくじゅう、銃剣道で使う棒)、防護盾、ネットランチャー(網を発射する装備)などです。

ちょっと笑えますが、ここでも後方支援に徹しているんですね。あくまでも猟友会のメンバーを運ぶ、移送業務というという位置付けらしいです。自衛隊がなぜ後方支援にこだわるのか。その話をしだすと、そもそも論として自衛隊そのものが憲法第9条に抵触していないのか。安保法制そのものが合憲なのか違憲なのか。という話をしなければならなくなるし、その話をし出すとデモ行進で「アンポ反対!」と叫ばなければならなくなるので、この話も一旦横に置いておきましょう。
とりあえず現状は少なくとも陸海空の武力が日本に存在し、それぞれ訓練を積んでいるという前提で話を進めさせてください。憲法改正の話や自衛隊の海外派兵の話は、このブログでも20年以上にわたって散々論じてきたので、サーバーのデータベース読み込みが遅くて大変恐縮ですが、それらをお読みください。日米地位協定に関する話も散々書いてきました。
さて現状は決して落ち着いているとは言えない、東アジアのデリケートな国際安全保障の状況。デリケートだからと言って話を逸らすと訳わかんなくなるので、ずばり言いますと、近年南シナ海や台湾で海洋進出を進めている中華人民共和国、ロシア、北朝鮮を仮想敵国として、アメリカを含む自由主義諸国が、どう対応するのか。その自由で開かれたインド太平洋の一員である我が国の、軍備(自衛隊)はどのように防衛予算を使っていくのか。それが今日のテーマです。Facebookで「我が国の防衛力を考えた時、装備は立派だが自衛隊は深刻な人手不足にある」という話題に触れた時、反応してくださった方がいたのが、このブログを書くきっかけでした。
そうですね。自衛隊員の給料を上げて恩給をつければいいんじゃないですか。などとあっさり答えても良かったのですが、僕自身がそれでは納得できない、もっと本質的な問題があると感じていたので、それを書くことにします。
当時の現役世代だった僕は、業務上の理由から在日米軍とアメリカ大使館に深い関係があったので、その影響から僕の見解にはある程度バイアスがかかっていることも差し引いてお読みください。時はちょうどアメリカ軍がイラクに対して徹底的な空爆を行い、サダムフセインの身柄を確保した頃です。僕はたまたま知り合った友人である元自衛官が主催する飲み会に参加していました。場所は(言っちゃってもいいのかな)麻布のニュー山王ホテルでした。
基本的には日本人による日本語の飲み会であり、異業種交流会のような当時流行ったよくあるパーティーです。そこに日本語が全く使えない一人の米軍の海兵隊員が混じっていました。日本人の飲み会に参加して、言葉が全く通じないものだから、そのアフリカ系マリーンくんはポツンと壁の花になっていました。ひとりぼっちはあまりにも可哀想だと思った僕は、缶ビールを一つ彼のところへ持っていき、英語でちょっとした会話をしました。以下はそんな彼との会話です。
・君は米軍で何をしているんだい?
ーーー俺は海兵隊員で、明日からイラクに行くんだ。
・イラク?もう空爆は済んで、イラクにはもう砂漠しかないぜ?
ーーーああ知っている。でもその砂漠に向かってありったけのミサイルをブチ込むのさ。
・なんでだか理由がわからないな。
ーーー大統領の命令だからさ。俺たちUSマリーン(海兵隊)は大統領直属の軍なんだよ。だから素早く動ける。
・陸軍や海軍、空軍は?
ーーー海軍はあんなもんバスと呼ばれている。兵士を輸送するだけだからね。陸軍はそのバスに乗って戦争が終わった頃やってくる。だからレイト・カマーと俺たちは呼んでいる。空軍なんてフライング・パンティと呼んでいるよ。弱虫でも乗れるからね。白兵戦で実際に敵と戦うのは俺たち海兵隊員だけなのさ。
・へえ、軍隊同士でもお互いに張り合うなんて面白いな。で、なんで砂漠にミサイルを撃ち込むのかい?
ーーーそりゃあ弾薬を使い切らなきゃ、新しく弾薬を購入できないだろう。そうしないと弾薬工場で働いているオバチャンたちの仕事が無くなってしまう。
マリーンくんはとても自分の仕事に誇りを持っているように見えました。そのプライドが軍を支えているのではないか、と僕は感じました。日本の自衛隊とはえらい違いです。弾薬工場で働いている人の職まで一介の海兵隊員が気にするとは、流石に軍事産業立国のアメリカらしい感じがしました。
そして僕たちの会話に後から参加した元自衛官の友人は、つけ添えていきました。一年に一回、富士山麓で行われる総合火力演習について。なんでわざわざ総合火力演習と呼ぶのか分かりますか?それ以外の平時、自衛隊は演習の時に実弾を使うことは殆どないからだそうです。空砲で演習させられるらしい。実弾の数は一個一個きちんと数えられていて、その管理は厳しく、一発でも無駄に使うと上官が厳しく叱責されるのだそうです。「貴重な血税で賄われている弾薬」ということですが、なんだか第二次世界大戦の時に「天皇陛下から預かっている貴重な鉄砲」と表現していたのを彷彿とさせる発想です。
これで自衛隊員の士気は上がるでしょうか?僕は先ほどのマリーンくんのように、砂漠にミサイルを撃ち込む、というのも極端ですが、実弾を演習には使わせない、という日本の自衛隊の発想もまた前時代的な気がします。あるいは専守防衛という四文字に縛られているのでしょうか。秋田県のクマ退治に出動した陸上自衛官のように。クマが相手でも専守防衛ですか?
敵基地攻撃能力についても議論が深まっていますが、たしかにこれを認めてしまうとウクライナのように、歯止めのない全面戦争に発展していく危険性はあるかもしれません。でもミサイル等で原発を攻撃されただけで一巻の終わりという日本において、ミサイルが飛んでくるまで待つ、というというのも不安です。イージス艦やパトリオット等によって、敵の発射したミサイルを100パーセント迎撃できるという政府の見解も、素人には完全に信用するのは難しいかも知れません。
それよりも日々どんどん自衛官が辞職し、深刻な人材不足に陥っている自衛隊の現状を鑑みるに、やはり自衛官の士気を高める政策が必要な気がします。世界中を見渡すと、多くの国の軍人はみなプライドを持ち、自国のために命を張っている職業だという証として制服にバッジをつけて、堂々と街を闊歩していますが、日本の自衛官の場合は制服を着たまま公共交通機関に乗ることもできません。なにかしらやましい立場であるという中途半端な意識があるように思えてなりません。
日本の自衛隊は相当に優秀です。F35-B戦闘機やオスプレイもパイロットはあっさり乗りこなします。今は戦闘機も自分で乗るのではなく、ソニーや任天堂のゲームコントローラーを使って、リモートコントロールで操る傾向にありますから、空軍もフライング・パンティーからゲーマーに昇格しているかも知れません。空軍の主役はドローンです。そして陸軍、海軍、空軍といった昔からある3軍に加えて、宇宙軍、情報軍を加えた5軍体制が世界では主流になっています。
とりわけ情報軍(インテリジェンス)は極めて重要です。みなさんインテリジェンスというと通信傍受を使ったスパイ活動や暗号を思い浮かべるかも知れません。それらはシギント(SIGINT:Signals intelligence)と呼ばれ、確かに重要です。ランサムウエア一つ放り込まれただけで、大企業の業務が停止する時代です。敵国にフェイクニュースを送り、選挙をコントロールできる時代になるでしょう。
シギントだけではなく、僕はヒューミント(HUMINT:Human intelligence)が重要だと考えています。生成AIの時代ですから、その多くがシギントにやられるかも知れませんが、やはり人間同士の関係で信頼できる情報の確認は今後とも重要な要素になっていくでしょう。
さらに言えば僕が最も重要視してきたのが、そしてこれからも重視していくのがオシントです。これはみなさんでも今日からすぐに参加できます。そして諜報活動の90パーセントから95パーセントがオシント(OSINT:Open source intelligence)で得られる情報です。何も公安調査庁に勤める必要はありません。内調(内閣情報調査局)のメンバーになる必要もありません。高市内閣が新設しようとしている情報省だかなんだかに所属する必要もありません。この国はいくつもスパイ組織を作ろうとしては失敗していますから。
毎日報道される信頼できる公開情報を、きちんとこまめに分析すればできることです。決してスパイ活動はスパイ映画のように、秘密兵器を使ったり拳銃の達人が戦ったりして行われているものではないからです。いや、むしろ一般市民がちゃんとオシントを形成できるリテラシーを持つことの方が重要だと考えています。
そして武力装置である自衛隊には、武力に特化した立場から矜持を持ち、そして誇りを持って任務にあたれる環境整備を行ってもらいたいです。弾薬が足りないとか、メンテナンスが行き届かないとか、そんなレベルのことで防衛大臣の手を煩わすことのないよう、そして退職後が心配だと言って任官する人が減るだとか、そういう心配のない組織に、体質から改革していきましょうよ。
クマの駆除に完全防備で、でも手には木の棒だけ、という失笑を買うようなことをしている場合ではありません。弾薬はどんどん演習に使いましょう。古くなると使えず処理が大変だから。装備も古いのはどんどん処分しましょう。アップデートが重要ですから。そういう旧日本軍の悪しき体質を引きずらず、正しい方法で防衛予算を使ってくれるなら、金額は問題ではありません。
正しい防衛予算の使い方をしてくれるなら、対GNP比2パーセントでも構わないと思います。
問題は自衛隊の体質改善なのです。
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