私はハーグ(ICC)の味方です
Peter Dejong/Pool/Associated Press
(Q1)
“トランプ政権が制裁のICC赤根所長「正義は勝たなければ」” 私はICCの立場に立つものですが、トランプ氏は何をやらかしたのでしょうか。また国連や欧州の反応はわかりますか。
(A1)
調べると、これはかなり異例の事態です。トランプ政権は8月18日、ICC(国際刑事裁判所)の赤根智子所長本人を、米国の経済制裁対象に指定しました。 同時に、ICC上級公判弁護士のアブドゥライ・セイ氏も対象にしています。(Reuters)
根っこにあるのは、トランプ政権の「ICCには米国人やイスラエル人を裁く権限はない」という主張です。トランプ氏は2025年2月の大統領令で、ICCがイスラエルのネタニヤフ首相とガラント前国防相に逮捕状を出したことや、アフガニスタンでの米軍関係者について捜査したことを強く非難し、ICC関係者を制裁できる仕組みを作りました。米国もイスラエルもローマ規程の締約国ではない、というのが米側の論拠です。(The White House)
ただしICC側の法理は違います。犯罪がICC加盟国・地域で行われた場合には、容疑者の国籍が非加盟国でも管轄権を持ち得るという立場です。そこが米国との根本的な衝突点です。
今回の制裁は単なる抗議声明ではありません。米国内にある資産の凍結、米国人・米企業との取引制限、米金融システムからの排除などを伴います。大統領令には入国制限の仕組みもあります。つまり国際裁判所の現職所長個人に対して、米国が経済的な圧力をかけているわけです。(The White House)
そして、国連と欧州の反応はかなり明確にICC支持です。
国連のグテーレス事務総長は「深刻な懸念」を表明しました。国連とICCは別組織ですが、国連側はICCを国際刑事司法の基本的な構成要素と位置づけています。(Reuters)
EUはもっと踏み込んでいて、8月19日に「ICCへの揺るぎない支持」を正式声明で表明し、米国の決定を「深く遺憾」としました。さらに、ICCの独立性と公平性は「圧力、威嚇、干渉から自由でなければならない」とし、裁判所と職員を外圧から守るため全面的な支援を続ける、と明言しています。(欧州外部行動庁)
ICC所在地のオランダも反対を表明し、赤根所長への支持を示しています。EU首脳も赤根所長を名指しして「ICCとその職員を断固支持する」と表明しました。(Al Jazeera)
ですから、杉江さんがニュース7で引っかかった感覚はよく分かります。これは単に「米国とICCの意見が違う」という話より一段重い。司法判断を行う国際裁判所の裁判官個人に、超大国が経済制裁を科して圧力をかけてよいのか、という「法の支配」そのものに関わる問題です。
今日の赤根所長もまさにそこを突いていて、「ICCだけの問題ではなく、法の支配の危機として捉えてほしい」と述べています。(FNN)
私なら今回のニュースの核心は、ネタニヤフ氏への逮捕状の是非そのものより、裁判所の判断が気に入らない国家が、その裁判所の所長個人を制裁することを国際社会が許容するのか、というところに置きます。かなり重要なニュースだと思います。
(Q2)
なるほど。私自身も現役時代にハーグへの出張を経験していますが、国連や国際法の実効性が揺らいでいるのは予想していました。ネタニヤフやトランプがICCの言うことを聞かないのは想定内でしたが、赤根所長個人を制裁の対象とするというのは、完全に「法の支配」という国際的な基本理念を逸脱しています。合衆国市民あるいは与党共和党はトランプと同じ考えなのでしょうか。懸念されます。
(A2)
結論から言うと、米国市民全体がトランプ政権と同じ考えだとは、とても言えません。ただし共和党の政治家については、ICCへの制裁という方向ではトランプ政権との足並みがかなり揃っています。ここは分けて見る必要があります。
まず米国民です。今年3月のYouGov調査では、ICCに好意的な人が39%、否定的な人が20%で、好意的な方がほぼ2倍でした。ただし41%が「分からない」と答えています。つまりICCそのものが、米国の日常政治ではまだ十分知られていないとも言えます。共和党支持者だけを見ると、好意的29%、否定的31%、分からない39%。驚くほど割れています。共和党支持者=ICC敵視、とは言えません。
さらに今年7月のEconomist/YouGov調査では、「ICCの逮捕状に基づき、ネタニヤフ首相が米国に来た場合に逮捕すべきか」というかなり踏み込んだ質問に、米国民全体では49%が「逮捕すべき」、27%が反対でした。民主党支持者では68%が逮捕支持、共和党支持者でも24%は支持しています。これは少なくとも、米国社会全体が『ICCなど無視してよい』と思っているわけではないことを示しています。 (YouGov)
一方、共和党の議員になると様子が大きく違います。 2025年1月、ICC関係者への制裁法案を下院は243対140で可決しました。この時は共和党議員198人が賛成し、反対した共和党議員はゼロでした(トーマス・マッシー議員だけpresent=事実上の棄権)。民主党からも45人が賛成しています。 (Axios)
上院でも同じ法案を審議入りさせる採決では54対45。共和党上院議員は全員賛成し、民主党からジョン・フェッターマン議員が一人加わりました。ただし60票に届かなかったため、この時点では成立しませんでした。 (上院)
ですから、かなり単純化すると、
米国民全体 → トランプ氏と同じではない。むしろICCに好意的な人の方が多い。
共和党支持者 → ICCには懐疑的傾向があるが、かなり割れている。
共和党議員 → ICC制裁についてはほぼ完全にトランプ路線。
という構図です。
私はここで特に気になるのは、杉江さんがおっしゃる通り、今回がネタニヤフ氏の逮捕状を批判するという政治的主張から、裁判官個人への経済制裁へ一段進んだことです。ICCの管轄権を認めないという米国の立場には、歴代政権を通じて長い歴史があります。しかし「判決や捜査が気に入らないので、その司法機関の裁判官個人を金融システムから排除する」となると、問題の性質が変わってきます。
そして今日の赤根所長の発言も、その危機感から出ています。赤根氏は日本に対しても、ICC防衛へのより積極的な関与を求めています。米国が加盟国にICC離脱まで働きかけているとReutersは報じています。 (Reuters)
ですから「アメリカまで法の支配を捨てたのか」と悲観するところまではまだ行かなくていいと思います。米国社会の中にも強い反対意見はある。しかし、少なくとも現在の共和党の連邦議員レベルでは、ICCへの圧力を正当化する政治的コンセンサスがかなり出来上がっている。 私はこちらの方を警戒すべきだと思います。
そして今後の監視で特に重要なのは、赤根所長個人への制裁に対して、共和党内から「さすがにこれは行き過ぎだ」という声が出るかどうかです。そこは先ほど設定した監視でも拾う価値があります。
Q=杉江
A=ChatGPT by OpenAI(米)
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