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Peter Dejong/Pool/Associated Press

ICCは、英語の International Criminal Court の略で、日本語では「国際刑事裁判所」と呼びます。

一言でいえば、戦争や虐殺など、人類全体にかかわる重大な犯罪を行った「個人」を裁くための常設の国際裁判所です。

国同士の争いを裁く裁判所ではありません。大統領、首相、軍司令官、兵士など、犯罪に責任を負う「人」を刑事裁判にかけるための裁判所です。

なぜ、そんな裁判所が必要になったのか

第二次世界大戦後、ナチス・ドイツの指導者らを裁いたニュルンベルク裁判、日本の戦争指導者らを裁いた東京裁判によって、「国家の命令だった」「自分は政府の一員だった」というだけでは、重大な犯罪について個人の責任を免れることはできない、という考え方が大きく前進しました。

しかし、これらは戦争が終わった後、その戦争について特別につくられた裁判所でした。そこで「大きな虐殺や戦争犯罪が起こるたびに、その都度裁判所をつくるのではなく、常設の国際裁判所をつくるべきではないか」という議論が続きました。

冷戦中はなかなか実現しませんでしたが、1990年代に旧ユーゴスラビアとルワンダで大規模な虐殺が起こり、それぞれ特別の国際刑事裁判所が設けられました。この経験が、常設裁判所をつくる動きを一気に後押しします。(国連新聞)

そして1998年、ローマで開かれた国際会議で、120か国の賛成により「ローマ規程」という条約が採択されました。この条約に基づいてICCがつくられ、2002年7月1日に正式に発足しました。2026年9月現在、125か国がローマ規程の締約国です。日本は2007年に加盟しています。(国際連合条約集)

ICCの本部はオランダのハーグにあります。国連と協力関係にはありますが、国連そのものの機関ではなく、ローマ規程という条約によってつくられた独立した国際裁判所です。(国際刑事裁判所)

何を裁くのか

ICCが扱うのは、普通の殺人や窃盗ではありません。国際社会全体にとって特に重大だと考えられる、次の四つの犯罪です。

  • ジェノサイド(集団殺害犯罪)――民族や宗教集団などを全部または一部破壊する意図で行われる殺害など
  • 人道に対する犯罪――一般市民に対して広範または組織的に行われる殺害、拷問、強制移住、性的暴力など
  • 戦争犯罪――戦争中の民間人への意図的攻撃、捕虜虐待など、国際人道法に重大に違反する行為
  • 侵略犯罪――国家指導者らが、国連憲章に明白に違反する侵略行為を計画・実行すること

ローマ規程はこれらを細かく定義しています。(国際刑事裁判所)

ICCが何でも勝手に裁くわけではない

ここは非常に重要です。

ICCには「補完性の原則」という基本原則があります。

まず犯罪を捜査し、裁く責任を持つのは、その国自身の警察、検察、裁判所です。きちんと国内で捜査・裁判が行われているなら、原則としてICCは出てきません。

ところが、たとえば国家指導者自身が犯罪に関与していて、その国が本気で捜査する意思を持たない場合があります。内戦などで司法制度そのものが崩壊していることもあります。

そうした「国が本当に裁こうとしない、あるいは裁くことができない場合」に、最後の手段としてICCが働く。そのためICCはしばしば「最後の砦となる裁判所(court of last resort)」と説明されます。(国際刑事裁判所)

つまり、ICCは各国の裁判所を乗っ取るためにつくられたものではありません。むしろ「各国が自分できちんと裁くこと」を前提にした制度なのです。

大統領や首相なら裁かれないのか

ローマ規程では、国家元首や政府首脳などの地位そのものを理由に刑事責任を免れることはできないとされています。

ここにICCの大きな意味があります。

国内では圧倒的な権力を持ち、自国の司法では到底捜査できない人物であっても、重大な国際犯罪を行えば、「権力者だから法の外にいる」ということにはしない。それがICCの根本思想です。(国際刑事裁判所)

ただしICCには自前の警察がありません。逮捕状を出すことはできても、実際の逮捕は各国政府の協力に頼ります。このため、逮捕状が出ても容疑者を拘束できないことがあります。これはICCの大きな弱点でもあります。(国際刑事裁判所)

ICJとは違う

名前が似ているため混同されやすいのが、ICJ(国際司法裁判所)です。

ICJは基本的に「国対国」の争いを扱う裁判所。ICCは「個人の刑事責任」を裁く裁判所です。

たとえば「A国が国際法に違反したのではないか」を国同士で争うのがICJ。「その戦争で虐殺を命令した人物に刑事責任があるのではないか」を扱うのがICC、と考えると分かりやすいでしょう。

では、世界中の誰でもICCが裁けるのか

そうではありません。ICCにも管轄権の限界があります。

原則として、ローマ規程の締約国の領域で犯罪が行われた場合や、締約国の国民が犯罪を行った場合などが対象になります。また、非加盟国でもICCの管轄権を受け入れることができます。国連安全保障理事会から事件が付託される仕組みもあります。

したがって、「その国がICCに加盟していないから、その国の人間には絶対にICCの管轄権が及ばない」というほど単純ではありません。 犯罪がどこで行われたかなどによって変わります。侵略犯罪にはさらに特別な管轄ルールがあります。(国際刑事裁判所)

ICCは完全な制度なのか

もちろん完全ではありません。

米国、中国、ロシアなどの大国を含め、ローマ規程に加盟していない国があります。ICC自身に警察力がないため、各国の協力なしには逮捕できません。「なぜこの事件を捜査して、別の事件は捜査しないのか」という政治的公平性への批判もあります。裁判に長い時間と費用がかかるという問題もあります。

ですから、ICCの判断を批判してはいけないわけではありません。 捜査や逮捕状、判決について法的に批判し、裁判手続きの中で争うことは当然です。

しかしICCの理念そのものは非常に単純です。

「大量虐殺や戦争犯罪ほど重大な犯罪を犯した者が、権力者であることや国家に守られていることを理由に、まったく裁かれずに済む世界にしてはならない」

これがICCの出発点です。ローマ規程の目的も、重大犯罪について「処罰を免れる状態」を終わらせ、将来の犯罪の防止につなげることにあります。(国際連合 – 法務局)

だからICCをめぐる問題は、単に「ある裁判所を支持するかどうか」という話ではありません。

国家の最高権力者であっても法の上には立たない、重大な国際犯罪は法律と裁判によって判断する――という「法の支配」を、国際社会でも守れるのか。

そこがICCという制度の核心です。

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